中日から16年ぶり
シーズンで最も活躍した先発投手を表彰する沢村賞。今季は大野雄大(中日)が球団としては2004(平成16)年の川上憲伸以来16年ぶりに受賞した。大野雄は今季20試合に登板し、11勝6敗。防御率1.82、奪三振148で最優秀防御率と最多奪三振の2冠に輝いた。投球回148回2/3、10完投、6完封は両リーグを通じて最多であり、完投数2位の西勇輝(阪神)の4、完封数2位の菅野智之(巨人)の3を大きく引き離す“奮投”ぶりだった。
巨人・菅野との比較
沢村賞の選考では、開幕投手の開幕13連勝のプロ野球記録を達成し、最多勝と勝率第1位のタイトルを獲得した巨人・菅野との比較になったもようだが、大野雄を推す声が大半だったと報じられた。沢村賞の選考基準の7項目のうち、大野雄がクリアしたのは完投と防御率、勝率の3項目だったが、コロナ禍でレギュラーシーズンが120試合に短縮されたことが考慮されたようだ。
2度目の月間MVP
今季の大野雄は9月から10月にかけてが圧巻だった。9月は5試合に登板し、すべて完封で3勝をマーク。自身2度目となる月間MVPを受賞した。月間3度の完封は中日では89年9月の西本聖以来。2安打以下の完封を月間3度は43(昭和18)年10月の野口二郎(西鉄)以来77年ぶり、2リーグ制となって初の快挙だった。
球団新の45イニング連続無失点
9月15日の広島戦の二回から10月22日のDeNA戦の九回までを45イニング連続無失点に抑え、56年に大矢根博臣がマークした40回1/3を抜き、球団記録を64年ぶりに塗り替えた。連続イニング無失点が始まる前日の時点で、防御率1位(1.44)は菅野、大野雄は同2位(2.31)と水を開けられていたが、球団記録を更新した日には同1位(1.79)大野雄、同2位(2.02)菅野と、シーズン序盤からハイペースで飛ばしたライバル球団のエースを抜き去った。
10年目に大きく飛躍
二桁勝利は今季が4度目となる大野雄だが、昨季までは勝ちと負けが拮抗し、今季初めて勝率が6割を超えた。昨季の無安打無得点の達成や最優秀防御率のタイトル獲得は投球術が徐々にレベルアップしているプロセスであり、32歳になる10年目に大きく飛躍し、充実したシーズンを終えた。唯一の心残りは巨人・菅野との2度のエース対決で勝てなかったことだろうか。また今季国内FA権を取得するので動向が注目されたが、中日に残留が決まり、竜党はひと安心といったところだろう。
一人で投げきる“男の美学”
「最後の300勝投手」といわれた鈴木啓示(近鉄)が「一人で投げて監督と握手するのは投手冥利に尽きる」と野球中継の解説で自らの価値観を述べていた。鈴木は歴代3位の340完投を記録したが、近年は投手の分業化が進み、そういうシーンは過去のものとなりつつある。だが大野雄が一人で投げきることに“男の美学”を見いだしているならば、たとえ時代の流れに逆行していようともそれを貫いてほしい。プロには何か抜きん出た個性が必要とされるのだから。
沢村賞の選考基準における今季の大野雄の成績
勝利 | 奪三振 | 完投 | 防御率 | 投球回 | 登板 | 勝率 | |
選考 基準 |
15 | 150 | 10 | 2.50 | 200 | 25 | .600 |
大野 雄大 |
11 | 148 | 10 | 1.82 | 148.2 | 20 | .647 |
※青字は選考基準をクリア。