阪神、虎道の独走V

2リーグでの最も早いV
 9月7日に7度目のリーグ制覇をした阪神。 2リーグ分立後では、1990年の巨人より1日早く、もっとも早く優勝を決めた。昨季は5月に広島に首位を明け渡したが、今季は5月17日に大竹耕太郎の今季初勝利で、広島に代わり首位に立った。2位と2.5ゲーム差で臨んだ交流戦は、8勝10敗と負け越したが、セ・リーグに勝ち越したチームがなかったことから交流戦後に2位とのゲーム差は3.5に。6月28日から日本一に輝いた23年以来となる11連勝し、2位巨人とのゲーム差は9.5と開き、独走態勢を固めた。7月30日にマジック「39」が初点灯。マジックは一度は消えたが、順調に白星を積み重ね、ペナントレースを制した。(記録は9月7日現在)

総得点と総失点はトップ
 総得点437はリーグトップ。チーム打率2割4分5厘は同2位タイ、チーム本塁打80本は同3位も、127犠打と93盗塁はリーグトップだった。総失点296はリーグ最少で、ダントツのチーム防御率2.12の賜物だった。得失点差141は同2位のDeNAの13を圧倒していた。同一リーグでの対戦成績は、中日とは五分。広島からは11、巨人からは10、DeNAとヤクルトからは7つの貯金をつくった。ホームでは36勝23敗1分け、ロードでは42勝22敗2分け。最下位のヤクルトのロードでの借金数(20)と同数を稼いだ。

群を抜く投手力
 投手陣は先発の2本柱である村上頌樹と才木浩人が引っ張った。昨季は7勝11敗と精彩を欠いた村上は11勝(リーグ3位)3敗。防御率2.04(同4位)、勝率はリーグトップの7割8分6厘。5月は3勝(2完封)、防御率0.69と抜群の安定感で、最優秀選手と新人王に選ばれた23年以来となる月間MVPを受賞。昨季初めて規定投球回に達し、13勝(3敗)を挙げた才木はリーグトップタイの12勝(5敗)を挙げ、防御率1.62はリーグトップ。勝率7割6厘(同3位)の成績を残した。優勝争いが佳境を迎えた8月はリーグ2位の34回⅓を投げ、同トップの4勝を挙げて月間MVPを受賞。救援陣は40試合連続無失点を達成し、プロ野球記録を更新した石井大智を筆頭に盤石だった。石井は50試合に登板し、防御率0.18。及川雅貴と岩崎優を加えた3人が登板した試合は、21勝1敗2分け(勝率9割5分5厘)と絶対的な”勝利の方程式”を確立した。

クリーンアップで打点3傑独占
 森下翔太、佐藤輝明、大山悠輔のクリーンアップが攻撃の”核”となり、3人でセ・リーグの打点三傑を独占。佐藤輝は89打点、森下は80打点、大山は66打点を挙げ、3人で総得点の53.8%の打点をマーク。本塁打は佐藤輝は36本、森下は20本、大山は9本。チーム本塁打の81.3%を叩き出した。クリーンアップの後ろに控える前川右京が打点を稼ぎ、チームの得点力をさらに向上させるという藤川球児監督の目論見は外れたが、この3人で前川の分の打点まで稼いだ感があり、嬉しい誤算だっただろう。開幕当初は佐藤輝、森下、大山という並びで、近本光司、中野拓夢とトップバッターから左打者が3人続いたが、佐藤輝と森下の順番を変えて、左左右左右という並びになり、右打者と左打者の配置のバランスが良くなったことで、打線がうまく機能し始めた印象がある。

チームの守備力の向上
 佐藤輝は守備での貢献も大きかった。昨季は三塁手として117試合に出場し、リーグワーストの23失策を記録。今季は3年ぶりに外野も守り、5失策。チームの失策はリーグ2位の53個。岡田前監督が指揮を執った23年はリーグワーストの85失策、24年はリーグ5位の85失策。石井の連続試合無失点のプロ野球記録もチームの守備力の向上が要因のひとつだろう。

選手ファーストの采配
 藤川監督の選手ファーストの采配もチームの潜在能力を引き出した。現役時代、MLBや独立リーグで辛酸をなめた経験を生かし、選手のコンディションに最大限配慮したことで主力選手がケガで離脱することなく、ペナントレースを戦えた。主砲のケガで攻撃力が大幅に低下した巨人やヤクルトとは対照的だった。

ドラフト戦略の勝利
 藤川監督が宙に舞った試合のスタメンはすべて生え抜き。ドラフト1位入団は近本(18年)、森下(22年)、佐藤輝(20年)、大山(16年)。同2位入団は坂本誠志郎(15年)、同3位入団は木浪聖也(18年)と才木(16年)。長期的な視点に立ったチーム編成構想とスカウトの確かな眼力がもたらしたドラフト戦略の勝利でもあった。

佐藤輝、ミスタータイガースへ

主砲として大車輪の働き
 球団創立90周年の今季、首位を独走する阪神。チームの主砲として大車輪の働きをしているのが5年目の佐藤輝明だ。1年目に岡田彰布以来となる新人の二桁本塁打、田淵幸一の球団新人最多を更新する24本塁打を放つなど、スラッガーの片鱗を示した。入団から3年連続で20本塁打を以上を記録するも、昨季は16本止まり。今季は飛躍を期していた。

森下に代わり4番に
 2月のキャンプの紅白戦で藤川阪神「1号」。3月のMLBプレシーズンゲームでは、サイ・ヤング賞2度のドジャース、ブレイク・スネルから豪快な3ラン。これが打撃技術開眼の号砲だったのか――。開幕戦では今季初打席で2025年のプロ野球「第1号」。4月5日の巨人戦では球団通算8500号という記念弾で、伝統の一戦の勝利に花を添えた。当初は「初回に必ず打順が回る」(藤川監督)という考えのもと、3番で起用されていたが、同月15日から森下翔太に代わり、4番に定着。それまで6勝6敗1分だった阪神の快進撃は佐藤輝が4番に座ってから始まった。

広角打法が結実
  4月20日の広島戦では、甲子園のバックスクリーンの左へ2発。同月25日の巨人戦でも広い本拠地のバックスクリーンの左へと打ち込んだ。昨オフから取り組んでいる広角に打つ取り組みが実を結んでいる。それは甲子園特有の浜風対策としても威力を発揮するだろう。

バンテリンドームで4本
 6月5日に放った昨季に並ぶ16号は、通算100号というメモリアル弾になった。同月8日の関西ダービーでは、4-1の八回に森下が申告敬遠の後、ダメ押しの満塁弾。7月13日にはチームの85試合目で、21年と23年に記録した自己最多タイとなる24号。同月19日には再び伝統の一戦で、延長11回に自己最多となる25号決勝2ランを放ち、巨人の自力優勝の芽を摘んだ。球宴では新人の年以来となる通算2本目となるアーチを描く。8月5日の中日戦では、0-2の劣勢から試合前まで防御率0.98だった左腕・橋本侑樹から28号逆転3ラン。バンテリンドームでは昨季は本塁打がなかったが、今季は4本目。本塁打が出にくい球場でも柵越えできるのは、ボールをしっかりと捉えることができている証だろう。この勝利でチームは両リーグ一番乗りの60勝となった。

阪神の長距離砲は受難の時代
 8月月8日には両リーグ最速となる30号。阪神生え抜きのシーズン30本塁打以上は、球団史上初の日本一となった1985年の掛布雅之(40本)と岡田(35本)以来となる。91年オフに甲子園からラッキーゾーンが撤去されてから阪神の長距離砲には受難の時代となり、球団のキングは86年のランディ・バース(47本)、日本人選手では84年の掛布(37本)以来途絶えている。

ミスタータイガースへ
 1年目は長嶋茂雄以来、63年ぶりに新人で1試合3本塁打を放つも、59打席連続無安打のリーグワーストを記録するなど、好不調の波が激しかった。2年目からは2割6分以上の打率を維持し、確実性も兼ね備えた。8月25日現在、本塁打王のタイトルはほぼ確実にし、打点も2位の森下より7打点多い78。打率はリーグ9位の2割7分4厘(トップは広島・小園海斗の2割9分6厘)。三冠王を狙える打者へと変貌を遂げ、ミスタータイガースへと突き進む。