DeNA、26年ぶりの日本一

予想ではソフトバンクが優勢
 DeNAが4年ぶりの頂点を目指したパ・リーグ覇者のソフトバンクを破り、球団としては26年ぶり、DeNAとしては初の日本一に輝いた。レギュラーシーズン3位からの日本一は2010年のロッテ以来、セ・リーグでは初の快挙だった。レギュラーシーズンの貯金はソフトバンクの42に対し、DeNAは2。戦前の予想では圧倒的にソフトバンクが優勢という声が多く、事実第2戦まではそのとおりの展開になった。

今シリーズの分岐点
 勝負の分岐点となったのは第3戦に先発した東克樹の初回の踏ん張りだろう。DeNAは本拠地で2戦とも先制され連敗。敵地で迎えた第3戦、喉から手が出るほど欲しかった先制点を主将・牧秀悟の遊ゴロで初回に挙げたが、その裏に早々にピンチを招いた。一死後、柳田悠岐と栗原陵矢の連打で一・二塁とされ、打席には4番山川穂高。捕手・戸柱恭孝やDeNA首脳陣の脳裏に第2戦で喫した先制の2ランが浮かんだのではないだろうか――。東は山川を注文通りに遊撃へのゴロに打ち取り、併殺でチェンジと思いきや、森敬斗がファンブル。二塁で封殺したので失策にはならなかったが記録に表れないミスだった。二死一・三塁で今シリーズにスタメン初出場の近藤健介に打順が回った。近藤には適時二塁打で同点にされたが、続く今宮健太を三振に打ち取った。ここで勝ち越されていれば、流れはソフトバンクに優勢になり、その後の試合展開だけでなく、今シリーズの勝負の行方はDeNAにかなり厳しいものとなっていただろう。気落ちしても仕方のない状況で踏ん張るメンタルの強さと味方のミスをカバーする投球術。今季、自己最多かつ両リーグトップの183イニングを投げ、13勝を挙げたエースの面目躍如だった。東は毎回の10安打を打たれながらも7回1失点。攻撃陣もその粘投に応えるように6安打で4点を奪った。

流れを決定的に
 この勝利は今シリーズでの連敗を止めただけでなく、2018年の第3戦から続いていた日本シリーズでのソフトバンクの連勝を14で止め、同時に11年の第7戦から続いていた本拠地での連勝を16で終わらせた。ソフトバンクの日本シリーズでの破竹の勢いを削いだという意味で大きな価値があった。東の力投で引き寄せた流れは第4戦のシリーズ初登板のアンソニー・ケイ、第5戦に来日初の中4日で先発したアンドレ・ジャクソンへと引き継がれた。両投手ともに7回無失点で、チームは2試合連続の零封勝ち。シリーズの流れを決定的なものとした。

ソフトバンク救援陣の窮状
 ソフトバンクにとってレギュラーシーズンで23ホールド14Sを挙げていた松本裕樹と、19ホールド1Sの藤井皓哉の不在は痛かった。これにより小久保裕紀監督の継投プランに狂いが生じた。第3戦は先発スチュワート・ジュニアが4回1失点。制球が不安定だったため先手を打って、五回から大津亮介を投入したが、先頭打者の桑原将志に勝ち越し弾を浴びる(敗戦投手は大津)。第4戦は0-1の六回二死一塁でオースティンを迎えたところで、先発・石川柊太から尾形崇斗にスイッチ。尾形はこのピンチを三振で切り抜けたが、七回に先頭打者、宮崎敏郎に被弾。その後もDeNAの攻撃を止められずに降板。一死満塁で登板した岩井俊介は2本の適時打を打たれ、傷口を広げた。第3戦に4番手で登板した前田純は、オースティンから三振を奪うなど2イニングとも三者凡退に抑え、第5戦の0-1という場面で3番手として登板。第4戦まで17打数2安打(打率.118)と眠らせていた牧に致命的な3ランを被弾。第6戦では柳田悠岐の2ランで2-4と追い上げた直後の五回に登板したスチュワートは、1/3イニングで5失点と炎上。交代した岩井も2失点で、事実上の終戦となった。今シリーズでソフトバンクが勝ったのは先発からダーウィンゾン・ヘルナンデス-ロベルト・オスナとつなげた第1戦と、先発から1/3イニングを挟んで両投手につなげた第2戦だけという事実が敗因を浮き彫りにしている。岩井は新人、前田純は今季1試合の登板。荷が重かったと思われるが、そういう場面で使わざるを得なかった窮状が窺える。加えてレギュラーシーズンはゾーンで勝負できた――1試合当たりの与四球数2.7、同与死球数0.5――ソフトバンクの投手陣だが、第3戦以降は19個の四球、第5戦以降は5個の死球を与えた。第1戦では7イニングで与四球2個と持ち前の制球力を発揮した有原も、第6戦は3イニングで与四球2個、与死球1個と乱れた。

ちぐはぐな小久保采配
 攻撃陣では第2戦は3安打3打点と打棒が爆発した山川が第2戦の第4打席から今シリーズの最終打席まで16打席無安打。4番の不振は第3戦の二回から第6戦の三回まで日本シリーズワーストの29イニング連続無得点という打線のブレーキになった。野手では9月中旬に右足首をケガした近藤の起用法が焦点となっていた。小久保監督はセ・リーグ本拠地では代打で、パ・リーグ本拠地ではDHとして起用する方針だった。窮地に追い込まれた横浜球場での第6戦、近藤はスタメン出場し2安打と気を吐いたが、チームが勝ったのは、近藤がスタメンで出なかった試合という皮肉な結果になった。また第5戦、0-4で迎えたラッキーセブンのソフトバンクの攻撃。一死一・二塁(暴投で二・三塁に進塁)で嶺井博希に打席が回ったが代打の切り札、中村晃を使わず、九回二死ではネクストバッターズサークルの中村晃に打順が回らず試合終了。今シリーズでの小久保采配のちぐはぐさを象徴するシーンだった。

歴史的敗北
 DeNAは第3戦以降、南場智子オーナーのチームへの愛情と球団経営への情熱が注入されたかのように選手が躍動した。一方、ソフトバンクは日本一に22度輝いた巨人を凌ぐ、シリーズの連勝記録を14まで伸ばしたが、シリーズワーストの29イニング連続無得点で敗れ去った。歴史的敗北といえるだろう。

最高殊勲選手賞
 最高殊勲選手賞は桑原将志が受賞。全試合にトップバッターとして出場し、27打数12安打(打率.444)。日本シリーズ新記録となる5戦連続打点に、6試合のシリーズでは最多タイとなる9打点をマーク。第3戦と第5戦で見せた執念のダイビングキャッチ。第6戦の初回、一塁にヘッドスライディングで内野安打とした闘志。攻守に活躍し、ガッツマンの本領を発揮した。第2戦終了後にチームに檄を飛ばした――「悔しくないのか」とは言ってなかったようだ――と伝わるが、自らが実践しチームを牽引した。17年の日本シリーズでも全試合トップバッターとして出場し、26打数4安打(打率.154)1打点。初戦から14打席連続無安打と不振を極め、両チームワーストの2盗塁刺に10三振(第2戦は4打席連続三振)。DeNA元年の12年に入団し、横浜DeNAベイスターズと歩みを共にした男が、今シリーズで見事にリベンジを果たした。

敢闘選手賞と優秀選手賞
 敢闘選手賞は全試合で安打を放ち、24打数9安打(打率.375)2打点の今宮が受賞。守備でも遊撃手としてフルイニング出場し、チームトップの補殺20(守備率10割)を記録。優秀選手賞は筒香嘉智、ジャクソン、ケイが受賞。筒香は全試合に出場し22打数6安打(打率.273)6打点。第3戦では貴重な追加点となる犠飛。第5戦の先制適時打。第6戦では先制ソロに続き、ダメ押しとなる3点適時二塁打を放った。今季は5年ぶりにMLBからDeNAに復帰し、レギュラーシーズンでは7本塁打23打点と往年の打棒は発揮できなかったが、今季の締め括りとなる大舞台で勝負強さを発揮した。主将として全試合4番の重責を担った17年の日本シリーズの雪辱を果たした。ジャクソンは2試合に先発し1勝1敗。11回2/3で自責点2(防御率1.54)。計17個の三振を奪い(奪三振率13.11)、ソフトバンク打線を力でねじ伏せた。ケイは第4戦に先発し勝利投手に。東がつくったいい流れをジャクソンへとつなげる好投を見せた。

ソフトバンク、4年ぶりの戴冠

球団3人目の新人監督V

 4月4日に6試合目で首位に立ったソフトバンクが一度もその座を譲らず、球団として20度目のリーグ制覇を成し遂げた(南海の10度、ダイエーの3度を含む)。今季から指揮を執る小久保裕紀監督は、1946年の山本(鶴岡)一人、2015年の工藤公康以来、球団史上3人目となる新人監督としての栄冠だった。

先発投手陣の立て直し

 小久保監督が最優先課題としたのが、昨季12球団で唯一規定投球回到達者がいなかった先発投手陣の立て直しだった。昨季投手陣で100イニング以上投げた石川柊太(125回2/3、4勝8敗)、有原航平(120回2/3、10勝5敗)、大関友久(104回2/3、5勝7敗)、和田毅(100回、8勝6敗)の合計は27勝26敗(防御率3.17)。貯金はわずかに1で、大ベテランの和田に頼らざるを得ない苦しい台所事情だった。

先発に配置転換

 昨季の救援陣からリバン・モイネロと大津亮介を先発に配置転換。今季100イニング以上投げたモイネロ(163回、11勝5敗)、有原(182回2/3、14勝7敗)、大関(119回1/3、8勝4敗)、スチュワート・ジュニア(120回、9勝4敗)、大津(119回1/3、7勝7敗)の合計は49勝27敗(防御率2.29)。22の貯金を稼ぎ、防御率も1点近く良化。モイネロは初の最優秀防御率のタイトルを獲得し、有原は日本ハム時代の2019年以来2度目の最多勝利投手賞に輝いた。

救援陣のクオリティを保つ

 昨季2人合わせて31HP(ホールドポイント=救援勝利+ホールド)を挙げたモイネロと大津が先発に回り、昨季までソフトバンクの救援陣を支えてきた甲斐野央と嘉弥真新也が退団。武田翔太と板東湧梧は今季登板がなく、昨季この6人で挙げた56HPがゼロになった。今季は、昨季8月に加入し1試合の登板で防御率27.00だったダーウィンゾン・ヘルナンデスが24HPを挙げ、勝利の方程式の一角を形成。藤井皓哉が昨季の9HPから21HPに伸ばし、昨季は登板がなかった杉山一樹が自己最多となる50試合に登板し18HP。日本ハムから現役ドラフトで加入した長谷川威展も自己最多の32試合に登板し10HP。尾形崇斗と和田毅はともにプロ入り初ホールドを記録。新人の岩井俊介、大山凌、澤柳亮太郎もHPをマーク。昨季HPを記録した12人の投手(合計154HP)の防御率は2.61、今季は14人(148HP)で2.68。先発陣に人材が流出したが、救援陣のクオリティを保った。

選手層の厚さ

 昨季のチームの攻撃スタッツは、得点は536(リーグトップ)、本塁打は104(2位タイ)。近藤健介が打点と本塁打の2冠に輝くなど、攻撃力は優勝したオリックスに見劣りしなかったが、今季はさらに上積みを狙い、国内FA宣言をしていた西武の山川穂高を獲得。その結果、山川は打点と本塁打のタイトルホルダーになる。チーム本塁打はリーグトップの114、チーム得点も2位日本ハムの532を大幅に上回る607。攻撃力の強化は奏功した。オープン戦で好調だった大砲候補のアダム・ウォーカーは不発に終わり、3番柳田悠岐が5月末から右太腿のケガで長期離脱。5番近藤健介も9月中旬に右足首のケガで戦線離脱。小久保監督の青写真通りに事が進んだわけではなかったが、「常に最悪最低を想定しながら」のマネジメントで、育成出身の川村友斗(出場試合数82)や緒方理貢(同76)、慶應三兄弟の正木智也(同71)と柳町達(同65)、6月に支配下復帰した19年ドラフト1位の佐藤直樹(同42)らの躍動を引き出した。23年から4軍制を敷く大所帯がもたらした選手層の厚さも、レギュラーの不在を感じさせなかった一因であるだろう。

復活を印象付ける独走V

 小久保監督は優勝決定後のインタビューで、「(リーグ)3連覇したオリックスがいたからこそ我々もそこに向かってやれるというシーズンだったんじゃないかなと思います」と回想した。開幕当初、「代えのきかない選手になることが本当のプロフェッショナル」と選手に訓示し、今季の優勝を「(選手が)プロフェッショナルとしてやった結果」と総括した。17年から4年連続日本一に輝いた、強いソフトバンクの復活を印象付ける独走での戴冠だった。