初の盗塁王
今季50個の盗塁を決め、盗塁王のタイトルを初めて獲得したソフトバンクの周東佑京。10月28日に、1971、73(昭和46、48)年の福本豊(阪急)に並ぶプロ野球タイ記録となる11試合連続盗塁を成功。翌日に12試合連続で新記録、さらに次の日にはバート・キャンパネリスがアスレチックス時代の1969年にマークしたMLB記録を抜き、13試合連続の世界記録を打ち立てた。これまで盗塁の連続試合記録はあまり注目されなかったが、埋もれた記録を発掘するきっかけを作ったという意味においても快挙であった。
侍ジャパンの秘密兵器
周東は昨季、代走の切り札的存在で25盗塁を決め、「足」で注目される選手となった。昨年11月のWBSCプレミア12第2回大会では稲葉篤紀監督に足のスペシャリストとして抜擢される。侍ジャパンの秘密兵器として4盗塁を決めて最多盗塁で表彰され、世界の舞台で“快足”をアピールした。今季の開幕前の自主トレで、「走りたいなら塁に出ろ」と福本からアドバイスを受け、周東は出塁することをより考えるようになったそうだ。
10月だけで23盗塁
左打ちの俊足の選手はややもすると“当てる”バッティングになりがちだが、福本は通算本塁打208本を記録したようにしっかりと振り抜く打撃を貫いた。周東もそれに倣い、内角のボールを引っ張れるようになり、打率も上がっていった。その結果、9月の後半からトップバッターを任されるようになり、出塁の機会が増え、10月だけで23盗塁。ひと月で昨季とほぼ同数の盗塁を記録した。チームは10月に22勝を挙げ月間勝利数のプロ野球記録を達成したが、周東のリードオフマンとしての働きが原動力のひとつだった。
打率と出塁率が大幅に上昇
いかに優れた盗塁技術を持つ選手であっても出塁しないことには盗塁できない。福本の教えは至極当然で、それを忠実に実践した結果の大記録だった。打率は昨季1割9分6厘→今季2割7分、出塁率は昨季2割1分2厘→今季3割2分5厘と大幅に上昇した。世界記録を達成した次の日に連続試合盗塁が途切れたのは、出塁できなかったのではなく、2安打を放ち出塁したものの前の塁に走者がいて盗塁の機会がなかったことによる。出塁することを強く意識した今季の周東の成長の跡がうかがえる。
盗塁成功率も上昇
盗塁成功率は昨季83.3%(盗塁25、盗塁刺5)→今季89.3%(盗塁50、盗塁刺6)。盗塁数は倍増したにも関わらず、失敗は1つしか増えておらず、盗塁成功率も上昇していることは特筆に値する。
真価が問われる来季
ソフトバンクが4年連続で制覇した今年の日本シリーズの第4戦、周東は7回裏二死一塁から二盗を試みたが、投手・中川皓太のスライドステップに加え、捕手・大城卓三もストライクの送球で盗塁は失敗に終わった。このシーンに周東の来季の課題が垣間見えた。パ・リーグの他球団は周東の足を封じるために研究を重ね、様々な対策を練ってくることが想定され、来季は真価が問われるシーズンになる。ドラフト7位で入団した福本と育成ドラフトでプロの世界に入った周東。プロ入りの経緯には相通じるものがある。対戦相手のバッテリーの厳しい警戒網をかいくぐり、13年連続で盗塁王に輝いた福本のような“逞しさ”を見せてほしい。