日本シリーズ2025総括

勝敗の分岐点
 勝敗の分岐点になったのは第2戦の阪神・ジョン・デュプランティエの先発起用だ。8月9日以来の実戦登板となったデュプランティエは1回2/3、7失点で早々と降板。小久保裕紀監督は第7戦までもつれたことを想定し、第2戦の先発にリバン・モイネロを起用したかっただろう。しかし、CSファイナルステージ第6戦に中4日でスクランブル登板したモイネロを先発起用すると中5日になる。そこで上沢直之を中8日で起用。上沢はCSファイナルステージ第3戦に先発し自責点5で敗戦投手になり、ポストシーズンの投球に不安を残していたが窮余の一策だった。日本ハムの執念の粘りによりソフトバンクは戦略の変更を余儀なくされた。だが上沢は序盤に大量援護点をもらい、スイスイと6回1失点。第1戦でビハインドの状況で使った”勝利の方程式”(松本裕樹、藤井皓哉、杉山一樹)を温存できたことも大きかった。そして第3戦、中7日で満を持して、モイネロの登場。ソフトバンクの日本一への道筋が出来上がった。短期決戦ではひとつの采配ミスが命取りになる。

1勝以上の価値
 阪神は第1戦を村上頌樹と佐藤輝明という投打の主役の活躍と3盗塁を絡めた機動力野球で制した。今季の阪神を象徴するような理想的な試合運びだったが、その流れを帳消しにしただけでなく、ソフトバンク打線に火を付けてしまった。特に第1戦でスタメンから外れた山川穂高は2安打5打点と躍動し、第3戦以降に弾みをつけた。2ヵ月半実戦から遠ざかっている投手であれば、いつ出てきても奇襲と言える。先勝して有利な状況にあっただけにデュプランティエの投入を焦る必要はなかったのではないか。順当なら才木浩人の先発だったが、才木なら打たれたとしても、あれほど大崩れすることはなかっただろう。第2戦はソフトバンクからすると1勝以上の価値があり、阪神からすると1敗以上に重くのしかかった。

本塁打ゼロ
 レギュラーシーズンではリーグ2位の496得点(1試合当たり3.5点)を挙げた阪神の攻撃陣だが今シリーズでは貧打に泣かされた。1試合の最多得点は2点。5試合で8得点(1試合当たり1.6点)と、約2点攻撃力は低下した。チームの総安打数33のうち、長打は二塁打4本(森下翔太と佐藤輝が2本ずつ)のみ。本塁打ゼロは5試合シリーズとしては2014年の阪神以来、2度目の記録だった。今シリーズでソフトバンクの投手は延べ23人起用されたが、KOできた投手はおらず、ソフトバンクの継投策にはまってしまった。第4戦に勝利の方程式の一角、松本裕から2点を奪ったのが精一杯の抵抗だった。

6番打者が明暗
 今シリーズはクリーンアップの後を打つ6番打者の出来が明暗を分けた。阪神の6番打者(代打の選手を含む)は打点ゼロだったのに対し、ソフトバンクは計6打点。第5戦では野村勇が日本一を手繰り寄せる決勝ソロを放った。上位打線は阪神もソフトバンクと引けを取らなかったが、一昨年のような”恐怖の8番打者”も不在で、下位打線には大きな差があった。典型的だったのは第4戦。下位打線は無安打で四死球による2度の出塁があるのみで、打線が上位と下位で分断していた。これでは攻撃は手詰まりになる。第5戦こそ8番坂本誠志郎が先制適時打、9番大竹耕太郎の安打を足がかりに1点を奪ったが、下位打線でチャンスをつくり、上位打線に回すという形をもっと早くつくりたかった。ソフトバンクは調子が下降気味の首位打者・牧原大成を9番に置く余裕があったし、第4戦の五回には9番大津亮介が四球で出塁し犠飛で生還。第5戦の八回、8番嶺井博希の安打での出塁も大きかった。柳田悠岐を打席を迎えたとき、〈一発が出れば同点〉というプレッシャーが石井大智の制球に微妙な狂いを生じさせたとは考えられないだろうか――。

代打陣の差
 代打陣にも差があった。今シリーズで阪神が代打で起用した選手は延べ13人。第2戦は4人全員が三振。今シリーズを通して、四球による出塁が1度あるだけで無安打だった。ソフトバンクはケガから回復途上の近藤健介がセ・リーグ本拠地では代打に回り、第4戦では貴重な追加点を叩き出す。終盤に1点差に追い上げられただけに、値千金の一打だった。

異次元の強さ
 ソフトバンクにも隙はあった。阪神の今シリーズでのチーム失策数2に対し、第3戦は2失策、第4戦では3失策。阪神は第3戦の四回以降は毎回得点圏に、五、七、八回は三塁に走者を進めるが、スミ1で敗れた。第4戦は二~六回まで毎回走者を出すが得点できたのは八回の2点のみ。一方のソフトバンクは第2戦の一回の3点、二回の6点はいずれも二死から。阪神は攻撃側からすると「あと1点が取れない」、守備側からすると「あと1アウトが取れない」――。レギュラーシーズンの同一リーグのチームとの対戦では感じなかった攻守両面での驚異的な粘り。それは異次元の強さだっただろう。

第5戦で決着
 小久保監督は第5戦の先発に、レギュラーシーズン終盤から調子を落としていた大関友久ではなく、中4日で有原を起用。この采配に昨年と同じ轍は踏まないぞ、という並々ならぬ決意を感じた。阪神はレギュラーシーズンでは50試合連続無失点、CSファイナルステージから日本シリーズ第4戦まで6試合連続無失点を継続していた石井が八回に痛恨の被弾。延長十一回にはエース村上が伏兵に一撃を浴び、万事休した。独走でペナントレースを制した阪神の球団創立90周年シーズンは悪い夢の中で終幕した。交流戦後に藤川球児監督がパ・リーグのチームとの選手層の厚さに違いを感じたと発言したが、その見立ては今シリーズの展開と結末を予見したかのようであった。

表彰選手
 最高殊勲選手賞は山川が受けた。第3戦以降4番に座り、打率3割8分5厘、7打点、長打率1.154。第2戦から日本シリーズ史上6人目となる3試合連続本塁打。昨年はシリーズ最終打席まで16打席連続無安打と不振に陥り、チームの敗戦の大きな要因となっただけに今シリーズにかける思いは人一倍強かっただろう。見事にリベンジを果たした。
 敢闘選手賞は佐藤輝。4番・三塁手としてフルイニング出場し、打率3割6分8厘、5打点。5試合連続打点は昨年の同シリーズMVPのDeNA・桑原将志以来2人目。セ・リーグ打点王の意地を見せた。優秀選手賞は柳田、杉山、藤井が受けた。柳田は全試合でトップバッターとして出場。打率4割5分5厘、2打点、1本塁打。その2打点は阪神の救援陣の大黒柱を打ち砕く、貴重な一打だった。杉山は4試合(計5イニング)に登板し、無失点で1勝2Sをマーク。藤井も4試合(計4イニング)に登板し、無失点で3ホールドを挙げた。

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