ソフトバンク、最下位からの逆転V

開幕カード3連敗
 ソフトバンクが9月27日に139試合目で21度目の優勝(南海の10度、ダイエーの3度を含む)を果たし、2014年~15年以来となるリーグ連覇を達成した。開幕カード3連敗でスタートした今季は主力選手にケガ人が続出。4月12日には勝率を5割に戻したが、その後5連敗もあり、4月終了時には単独最下位と低迷。5月に入っても、勝率は5割前後を行き来し、チーム状態はなかなか上向かなかった。開幕から昨季の本塁打王と打点王の山川穂高が4番に座っていたが、17勝19敗2分け。小久保裕紀監督は苦境を打破するために、5月15日の西武戦で山川を4番から外すという決断を下した。(記録は9月27日現在)

交流戦V
 反撃態勢が整ったのは、過去8度の優勝を飾り、得意とする交流戦だ。首位日本ハムに4.5ゲーム差の4位、貯金ゼロで臨み、日本ハムを抑えて、史上最多となる9度目の戴冠。7つの貯金をつくり、首位とのゲーム差を3に縮めて3位に浮上した。不調だった開幕投手の有原航平も本来の姿を取り戻し、クローザーには結果を残せなかったロベルト・オスナから杉山一樹を起用した。

粘る日本ハムを振り切る
 交流戦後も首位・日本ハムとの激闘は続いた。7月27日に8連勝で1ゲーム差と迫り、同月29日にゲーム差なしの単独首位に今季初浮上。翌日は日本ハムが1ゲーム差の首位に返り咲くが、次の日の直接対決に5-4と辛勝し首位に再浮上。8月9日からの本拠地での直接対決で3連勝したものの、同月22日からの敵地での直接対決で3連敗。一時は日本ハムとのゲーム差を4にまで広げたが、同月26日には、ゲーム差なしに追い上げられた。日本ハムが優勝への執念を見せるなか、9月5日にマジック18を点灯させた。同月18日の優勝決定前の最後の直接対決で逆転勝利を収め、マジックは7に。日本ハムとのゲーム差を今季最大の4.5に広げて、粘るライバルを振り切った。

日本ハムとのスタッツ比較
 総得点531はリーグ2位(日本ハムがリーグトップの542)。総失点382はリーグ最少(日本ハムは同2位の402)。得失点差はソフトバンクは149、日本ハムは140だった。パ・リーグで得失点差がプラスだったのはこの両チームだけで、戦力的に抜きん出ていた。防御率2.41はリーグトップ(日本ハムはリーグ2位の2.55)。完投は5つと、日本ハムの22に対し圧倒的に少なかった。完投にこだわらず、投手陣をフル稼働する継投策を貫いた。

二桁勝利カルテット
 先発陣は昨季の二本柱、有原は13勝9敗で防御率3.14(リーグ12位)、リバン・モイネロは12勝3敗で同1.46(同1位)。有原は7月1日の日本ハム戦で、NPB史上22人目の「12球団勝利」を達成。その勝利を含む4勝負けなしで月間MVPを受賞した。モイネロは開幕7連勝し、6月までは負けなしの”奮投”でチームを支えた。そして新たに2人が加わった。大関友久と上沢直之だ。育成ドラフト2位で20年に入団した大関は、今季初めて規定投球回に到達し、13勝5敗で同1.66(同3位)。交流戦では2勝を挙げ、優秀選手賞を受賞。日本ハムで通算70勝の実績を引っさげ、昨オフにポスティングシステムでMLBに挑戦した上沢は、日本球界に復帰し、12勝6敗で同2.78(同10位)。優勝争いが佳境を迎えた8月には4勝を挙げ、月間MVPを受賞。4人が12勝以上を挙げ、チームの勝利の約6割、貯金の約8割を稼いだ。シーズン序盤の最下位から逆転Vの最大の要因は強力な二桁勝利カルテットだろう。

勝率10割の方程式
 救援陣では、チーム最多の64試合に登板した杉山は30セーブ13HP(防御率1.86)。チームで2番目に多い51試合に登板したのは松本裕樹と藤井皓哉。松本裕は44HP(防御率1.07)、藤井は2セーブ21HP(防御率1.44)をマークした。杉山がクローザーに定着して以降、防御率1点台トリオが登板した試合は13勝負けなし。セ・リーグの覇者・阪神に匹敵する”勝利の方程式”を確立した。

昨季の控え組が補う
 主力選手の戦線離脱で、昨季より得点力は低下した。昨季の首位打者で最優秀選手賞を受賞した近藤健介の打点は昨季72→今季41。栗原陵矢は87→36。山川は99→56。柳田悠岐は35→7。今宮健太は昨季39→今季12。主力選手は軒並み数字を下げたのに対し、打率リーグトップの牧原大成は13→49。野村勇は1→40と飛躍。中村晃は16→34。嶺井博希は3→19。海野隆司は10→21。昨季の控え組が数字を伸ばして補った。

海野と嶺井が穴を埋める
 今季のチームの課題は、昨季43打点を挙げた甲斐拓也が巨人にFA移籍したことによる正捕手の不在だった。その穴は、102試合出場の海野と62試合出場の嶺井が計40打点を挙げ、補完した。海野はパ・リーグの捕手で2位の守備率9割9分9厘(刺殺649、補殺 63、失策 1)をマーク。守備でも貢献度は高かった。

今季のターニングポイント
 「5月の頭(2日のロッテ戦)です」。小久保監督は優勝決定後のインタビューで、今季のターニングポイントになった試合を挙げた。それまでに5試合に先発し、1勝3敗(防御率4.78)と本来の姿ではなかった有原が初回に3点を先制され、1-3で迎えた九回の二死走者なしから、代打・川瀬晃の適時二塁打で逆転サヨナラ勝ち。この試合に負けていれば、有原の負け越しも増え、5位ロッテとのゲーム差は3.5と広がり、借金は今季最大の8に膨らむところだった。エースとチームを救う、値千金の一打。川瀬は9月18日の大一番でも代打で勝ち越しの押し出し四球を選び、日本ハムに引導を渡した。脇役のいぶし銀の活躍が光った。

総合力で上回る
 上沢だけでなく、有原も日本ハムからポスティングシステムでMLBに挑戦し、日本球界に復帰した。その2人が大きな戦力となり、連覇の原動力となった。球団の潤沢な資金力とフロントの抜け目のない交渉術。総合力で日本ハムを上回り、連覇を達成した。

阪神、虎道の独走V

2リーグでの最も早いV
 9月7日に7度目のリーグ制覇をした阪神。 2リーグ分立後では、1990年の巨人より1日早く、もっとも早く優勝を決めた。昨季は5月に広島に首位を明け渡したが、今季は5月17日に大竹耕太郎の今季初勝利で、広島に代わり首位に立った。2位と2.5ゲーム差で臨んだ交流戦は、8勝10敗と負け越したが、セ・リーグに勝ち越したチームがなかったことから交流戦後に2位とのゲーム差は3.5に。6月28日から日本一に輝いた23年以来となる11連勝し、2位巨人とのゲーム差は9.5と開き、独走態勢を固めた。7月30日にマジック「39」が初点灯。マジックは一度は消えたが、順調に白星を積み重ね、ペナントレースを制した。(記録は9月7日現在)

総得点と総失点はトップ
 総得点437はリーグトップ。チーム打率2割4分5厘は同2位タイ、チーム本塁打80本は同3位も、127犠打と93盗塁はリーグトップだった。総失点296はリーグ最少で、ダントツのチーム防御率2.12の賜物だった。得失点差141は同2位のDeNAの13を圧倒していた。同一リーグでの対戦成績は、中日とは五分。広島からは11、巨人からは10、DeNAとヤクルトからは7つの貯金をつくった。ホームでは36勝23敗1分け、ロードでは42勝22敗2分け。最下位のヤクルトのロードでの借金数(20)と同数を稼いだ。

群を抜く投手力
 投手陣は先発の2本柱である村上頌樹と才木浩人が引っ張った。昨季は7勝11敗と精彩を欠いた村上は11勝(リーグ3位)3敗。防御率2.04(同4位)、勝率はリーグトップの7割8分6厘。5月は3勝(2完封)、防御率0.69と抜群の安定感で、最優秀選手と新人王に選ばれた23年以来となる月間MVPを受賞。昨季初めて規定投球回に達し、13勝(3敗)を挙げた才木はリーグトップタイの12勝(5敗)を挙げ、防御率1.62はリーグトップ。勝率7割6厘(同3位)の成績を残した。優勝争いが佳境を迎えた8月はリーグ2位の34回⅓を投げ、同トップの4勝を挙げて月間MVPを受賞。救援陣は40試合連続無失点を達成し、プロ野球記録を更新した石井大智を筆頭に盤石だった。石井は50試合に登板し、防御率0.18。及川雅貴と岩崎優を加えた3人が登板した試合は、21勝1敗2分け(勝率9割5分5厘)と絶対的な”勝利の方程式”を確立した。

クリーンアップで打点3傑独占
 森下翔太、佐藤輝明、大山悠輔のクリーンアップが攻撃の”核”となり、3人でセ・リーグの打点三傑を独占。佐藤輝は89打点、森下は80打点、大山は66打点を挙げ、3人で総得点の53.8%の打点をマーク。本塁打は佐藤輝は36本、森下は20本、大山は9本。チーム本塁打の81.3%を叩き出した。クリーンアップの後ろに控える前川右京が打点を稼ぎ、チームの得点力をさらに向上させるという藤川球児監督の目論見は外れたが、この3人で前川の分の打点まで稼いだ感があり、嬉しい誤算だっただろう。開幕当初は佐藤輝、森下、大山という並びで、近本光司、中野拓夢とトップバッターから左打者が3人続いたが、佐藤輝と森下の順番を変えて、左左右左右という並びになり、右打者と左打者の配置のバランスが良くなったことで、打線がうまく機能し始めた印象がある。

チームの守備力の向上
 佐藤輝は守備での貢献も大きかった。昨季は三塁手として117試合に出場し、リーグワーストの23失策を記録。今季は3年ぶりに外野も守り、5失策。チームの失策はリーグ2位の53個。岡田前監督が指揮を執った23年はリーグワーストの85失策、24年はリーグ5位の85失策。石井の連続試合無失点のプロ野球記録もチームの守備力の向上が要因のひとつだろう。

選手ファーストの采配
 藤川監督の選手ファーストの采配もチームの潜在能力を引き出した。現役時代、MLBや独立リーグで辛酸をなめた経験を生かし、選手のコンディションに最大限配慮したことで主力選手がケガで離脱することなく、ペナントレースを戦えた。主砲のケガで攻撃力が大幅に低下した巨人やヤクルトとは対照的だった。

ドラフト戦略の勝利
 藤川監督が宙に舞った試合のスタメンはすべて生え抜き。ドラフト1位入団は近本(18年)、森下(22年)、佐藤輝(20年)、大山(16年)。同2位入団は坂本誠志郎(15年)、同3位入団は木浪聖也(18年)と才木(16年)。長期的な視点に立ったチーム編成構想とスカウトの確かな眼力がもたらしたドラフト戦略の勝利でもあった。