ソフトバンク、4年ぶりの戴冠

球団3人目の新人監督V

 4月4日に6試合目で首位に立ったソフトバンクが一度もその座を譲らず、球団として20度目のリーグ制覇を成し遂げた(南海の10度、ダイエーの3度を含む)。今季から指揮を執る小久保裕紀監督は、1946年の山本(鶴岡)一人、2015年の工藤公康以来、球団史上3人目となる新人監督としての栄冠だった。

先発投手陣の立て直し

 小久保監督が最優先課題としたのが、昨季12球団で唯一規定投球回到達者がいなかった先発投手陣の立て直しだった。昨季投手陣で100イニング以上投げた石川柊太(125回2/3、4勝8敗)、有原航平(120回2/3、10勝5敗)、大関友久(104回2/3、5勝7敗)、和田毅(100回、8勝6敗)の合計は27勝26敗(防御率3.17)。貯金はわずかに1で、大ベテランの和田に頼らざるを得ない苦しい台所事情だった。

先発に配置転換

 昨季の救援陣からリバン・モイネロと大津亮介を先発に配置転換。今季100イニング以上投げたモイネロ(163回、11勝5敗)、有原(182回2/3、14勝7敗)、大関(119回1/3、8勝4敗)、スチュワート・ジュニア(120回、9勝4敗)、大津(119回1/3、7勝7敗)の合計は49勝27敗(防御率2.29)。22の貯金を稼ぎ、防御率も1点近く良化。モイネロは初の最優秀防御率のタイトルを獲得し、有原は日本ハム時代の2019年以来2度目の最多勝利投手賞に輝いた。

救援陣のクオリティを保つ

 昨季2人合わせて31HP(ホールドポイント=救援勝利+ホールド)を挙げたモイネロと大津が先発に回り、昨季までソフトバンクの救援陣を支えてきた甲斐野央と嘉弥真新也が退団。武田翔太と板東湧梧は今季登板がなく、昨季この6人で挙げた56HPがゼロになった。今季は、昨季8月に加入し1試合の登板で防御率27.00だったダーウィンゾン・ヘルナンデスが24HPを挙げ、勝利の方程式の一角を形成。藤井皓哉が昨季の9HPから21HPに伸ばし、昨季は登板がなかった杉山一樹が自己最多となる50試合に登板し18HP。日本ハムから現役ドラフトで加入した長谷川威展も自己最多の32試合に登板し10HP。尾形崇斗と和田毅はともにプロ入り初ホールドを記録。新人の岩井俊介、大山凌、澤柳亮太郎もHPをマーク。昨季HPを記録した12人の投手(合計154HP)の防御率は2.61、今季は14人(148HP)で2.68。先発陣に人材が流出したが、救援陣のクオリティを保った。

選手層の厚さ

 昨季のチームの攻撃スタッツは、得点は536(リーグトップ)、本塁打は104(2位タイ)。近藤健介が打点と本塁打の2冠に輝くなど、攻撃力は優勝したオリックスに見劣りしなかったが、今季はさらに上積みを狙い、国内FA宣言をしていた西武の山川穂高を獲得。その結果、山川は打点と本塁打のタイトルホルダーになる。チーム本塁打はリーグトップの114、チーム得点も2位日本ハムの532を大幅に上回る607。攻撃力の強化は奏功した。オープン戦で好調だった大砲候補のアダム・ウォーカーは不発に終わり、3番柳田悠岐が5月末から右太腿のケガで長期離脱。5番近藤健介も9月中旬に右足首のケガで戦線離脱。小久保監督の青写真通りに事が進んだわけではなかったが、「常に最悪最低を想定しながら」のマネジメントで、育成出身の川村友斗(出場試合数82)や緒方理貢(同76)、慶應三兄弟の正木智也(同71)と柳町達(同65)、6月に支配下復帰した19年ドラフト1位の佐藤直樹(同42)らの躍動を引き出した。23年から4軍制を敷く大所帯がもたらした選手層の厚さも、レギュラーの不在を感じさせなかった一因であるだろう。

復活を印象付ける独走V

 小久保監督は優勝決定後のインタビューで、「(リーグ)3連覇したオリックスがいたからこそ我々もそこに向かってやれるというシーズンだったんじゃないかなと思います」と回想した。開幕当初、「代えのきかない選手になることが本当のプロフェッショナル」と選手に訓示し、今季の優勝を「(選手が)プロフェッショナルとしてやった結果」と総括した。17年から4年連続日本一に輝いた、強いソフトバンクの復活を印象付ける独走での戴冠だった。

オリックス、4連覇潰える

リーグ4連覇潰える
 9月10日、京セラドームでのロッテ戦に1-4で敗れ、オリックスはリーグ4連覇が潰えた。杉本裕太郎の本塁打で先制するも、6回以降無安打に抑えられ逆転負け。今季を象徴するような貧打に苦しんだゲームだった。(記録は9月27日現在)

5位でCS出場逃す
 開幕直後はチーム状態が上がらず、何度か最下位に沈む。4月24日には貯金を2つ作り、首位ソフトバンクに2.5ゲーム差と迫ったが、これが今季のオリックスのクライマックスだった。6月26日にソフトバンクに敗れ、ゲーム差をその時点で今季最大の15.5に広げられ、自力優勝が消滅。だが7月9日からのソフトバンクとの2連戦に連勝。最大9あった負け越しがなくなり、首位まで12.5ゲーム差の3位に浮上。後半戦での反転攻勢が期待されたが、8月1日には借金は二桁に膨らんだ。シーズンの大詰めとなる9月。13日からの京セラドームでの直接対決4連戦に全敗。20日にみずほペイペイドームでも敗れ、再び本拠地に戦いの場を移した23日に小久保裕紀監督の胴上げを許すという屈辱を味わった。25日に楽天が勝利したことにより、今季の5位が確定。CS出場も逃した。

ソフトバンクに次ぐ投手力
 昨年、山本由伸がポスティングでMLBドジャースへ、山﨑福也はFAで日本ハムへ移籍。昨季2人でチーム勝利数の約31%にあたる27勝をマークした先発投手が抜け、それをどう補うかが今季のオリックスの課題だった。ただ昨季のチームスタッツをみると、防御率はリーグトップの2.73、失点はリーグ最少の428。今季の防御率はリーグ2位の2.82、失点は2番目に少ない435。エースの宮城大弥が左大胸筋の筋損傷で約1カ月半戦線離脱するという不測の事態はあったが、投手力に関しては昨季から大幅に低下したわけではなかった。問題は攻撃陣である。昨季のチームスタッツは、打率.250、109本塁打、長打率.369はいずれもリーグトップ、得点はリーグ3位の508。今季は打率.235、67本塁打、長打率.325、375得点はいずれもリーグ5位。チームの得点は昨季より100点余り少なく、攻撃力の低下が今季の低迷の主たる要因であった。

主力打者の打点が大幅減少
 昨季チームトップの135試合に出場した中川圭太はケガもあり、今季は出場試合数が激減。昨季の55打点から16打点と減少した。先日引退を発表したマーウィン・ゴンザレスは腰痛の影響もあり、昨季38打点→今季2打点。ルーキーイヤーの昨季に22打点を挙げた茶野篤政だが、今季は2打点。昨季の首位打者・頓宮裕真は49打点→30打点。昨季と今季のチームの打点王・森友哉は、出場試合数は昨季とほぼ同じだが本塁打が半減し、64打点→46打点。ホップ・ステップ、今季がジャンプのシーズンだった3年目の野口智哉は19打点→1打点。2021年のキング・杉本裕太郎は41打点→27打点。主力打者が打点を大幅に減らした。紅林弘太郎とレアンドロ・セデーニョは昨季とほぼ同数の打点、広島からFA移籍した西川龍馬はチーム2位の45打点をマーク。前半戦好調で球宴にも監督推薦で選ばれた(ケガで辞退)太田椋は7打点→39打点と伸ばしたが、減少分を補うことはできなかった。二桁本塁打を放った選手も昨季の5人から2人に減り、パ・リーグ覇者とのチーム得点の差は200点余りある。捲土重来にはチームの攻撃力のアップが最重要課題だ。

ゼロからのチームづくり
 9月に入り、T-岡田、安達了一、比嘉幹貴、小田裕也といったベテラン勢が相次いで引退を発表した。中嶋聡監督は就任後、既存をベースに独自色を施し、チーム力をアップしたが、来季はゼロからのチームづくりが必要となる。リーグ3連覇は球団史上、1967年~69年の西本幸雄監督、1975年~78年の上田利治監督の2人しか達成していない。球団も中嶋監督の手腕は高く評価しているだろう。来季も続投し、指揮官としての真価を見せてほしい。