前半戦首位ターンの巨人

3年連続トラに負け越し
 巨人の往年の名遊撃手・広岡達朗の現役時代を知る母が「今年、巨人は阪神に勝たないとあかん」と呟いた。事実、巨人は2021年から3年連続で阪神戦に負け越している。2リーグ分立後、伝統の一戦の年度別対戦成績は巨人の勝ち越しが56度、阪神の勝ち越しが13度(タイが5度)。巨人は1986年~02年までの17年連続勝ち越しなど阪神を圧倒している。巨人の2年連続以上の負け越しは、1984年~85年、03年~05年、前述のわずかに3度。今季負け越すと伝統の一戦史上初の4年連続となる。

21世紀は阪神が奮闘
 阪神が38年ぶりの日本一に輝いた昨季、巨人戦で18勝を挙げ、12の貯金をつくった。これは共に阪神の伝統の一戦での最多記録であった。21世紀に入ってからの年度別対戦成績は巨人の勝ち越しが12度、阪神の勝ち越しが7度(タイが4度)と、阪神の奮闘が目立つ。阪神が強くなったのか? それとも巨人が弱くなったのか?

大誤算からのスタート
 前半戦をセ・リーグ全球団に勝ち越し、8つの貯金をつくって首位で折り返した巨人だが、4位阪神までは3.5ゲーム差。首位と2位が10ゲーム差あるパ・リーグと対照的に大混戦だ。今季の巨人は大誤算から始まった。MLB通算178本塁打で大砲として期待したルーグネット・オドーアが、2軍調整を受け入れずに、シーズン開幕前に退団。阿部慎之助新監督の構想は戦いが始まる前に崩れ去ったが、5月28日のソフトバンク戦で1軍デビューしたエリエ・ヘルナンデス(29)が中堅のレギュラーに定着。41試合で163打数52安打(打率3割1分9厘)6本塁打23打点と打撃だけでなく守備でも存在感を発揮している。野手のウィークポイントは三遊間だ。坂本勇人は66試合の出場で2割2分4厘。坂本の後継者と目された門脇誠は打撃不振でスタメンから外れ、ドラフト4位ルーキー泉口友汰が取って代わるも47試合の出場で打率は2割1分1厘。米国出身のココ・モンテス(27)を緊急補強した。MLBロッキーズ傘下の3Aでは64試合で打率3割3分5厘、9本塁打、47打点の成績を残し、内野は複数ポジションを守れる。後半戦の野手陣のキーマンだろう。

トリプルエース
 先発陣は初めて開幕戦に先発し勝利投手になった戸郷翔征が、5月24日の阪神戦で史上89人目の無安打無得点試合を達成。巨人では沢村栄治以来となる甲子園での快挙だった。今季は相手チームのエースとの投げ合いが多く、7勝5敗(防御率2.11はリーグ8位)と貯金はそれほど稼げていないが、巨人投手陣でもっとも長い115イニングを投げ、先発陣を牽引している。21年は6勝7敗、23年は4勝8敗と負け越し、限界説が囁かれる菅野智之だが、8勝2敗、規定投球回未達も防御率2.21と好調だ。34歳になる旧エースが後半戦もこの調子を維持できれば、阿部監督にとって非常に心強い。その2人に負けじと奮闘しているのが4年目の山﨑伊織。昨季初めて二桁勝利を挙げ、飛躍が期待された今季、7勝2敗で防御率1.67(リーグ4位)とエース級の働きをしている。一方、先発陣の誤算は0勝6敗の赤星優志だろう。防御率は3.17も勝負どころで痛打を浴びるケースが目立つ。1、2年目でともに5勝5敗の成績を残して臨んだ今季だが、結果を出せていない。昨季は8月24日以降で5勝を挙げた。勝負となる8月、9月に戦力になれるか。

伝統の一戦がペナントの行方を左右
 今季の前半戦での伝統の一戦の戦績は巨人の8勝6敗1分け。巨人は戸郷が3勝、山崎伊が1勝。阪神の大竹耕太郎に2度、才木浩人に1度土をつけている。エースで確実に白星を手にし、相手のエースから白星を奪っている傾向があり、精神面でも優位に立っている。後半戦の課題は、2度白星を献上し、12イニングで無得点、15三振を奪われているジェレミー・ビーズリーをどう攻略するのか――。また3度敗戦投手になった赤星の代わりに誰を先発で起用するのか――。後半戦の伝統の一戦は、今季のセ・リーグのペナントの行方を左右するのかもしれない。(記録は7月21日時点)。

楽天、交流戦初V

価値ある戴冠

 楽天が球団創設20年目という節目の年に交流戦の初優勝を果たした。交流戦前は3連勝がなく、5月21日からのソフトバンク2連戦では、0-21、0-12と大敗。それらを含む6連敗もあり、18勝26敗1分け(パ・リーグ5位)と波に乗れなかった。交流戦に入ると気配が一変し、3連勝と4連勝、5連勝が一度ずつ、2連敗が一度だけという堅実な戦いぶりだった。雨天によるコールド負けが二度という不運を乗り越え、パ・リーグ首位のソフトバンクを振りきって、13勝5敗で頂点に立った。セ・リーグで首位を争う巨人と阪神という人気球団に全勝しての価値ある戴冠だった。

先発投手の’’奮投’’

 13勝のうち先発投手は8勝、救援陣は5勝を挙げた。2年ぶりの交流戦の登板となった藤井聖は5月30日のDeNA戦で交流戦初勝利を挙げると、交流戦トップタイとなる3勝をマーク。今季から先発に転向した内星龍は、同月29日のDeNA戦で交流戦初先発勝利を挙げると2勝をマーク。藤井も内も規定投球回数にわずかに届かなかったが、防御率はそれぞれ1.56、1.06と先発の役目を十二分に果たした。早川隆久は3試合に登板し1勝だったものの計23イニングで自責点はわずかに1。防御率0.39(個人投手成績3位)と抜群の安定感を見せた。4月には捕手批判ともとれる発言で物議をかもしたが、開幕投手の風格と実力を誇示した。交流戦初登板となる松井友飛と昨年のドラフト1位の古謝樹も1勝を挙げた。

救援陣の踏ん張り

 九回の逆転で3勝、延長戦を制して1勝を挙げたが、救援陣の踏ん張りも大きかった。7試合に登板した渡辺翔太は2勝1ホールド。8試合に登板した鈴木翔天は1勝1S3ホールド。ともに無失点だった。クローザー・則本昂大は5月30日のDeNA戦から6試合連続でセーブを挙げ、勝利に導いた。

攻撃陣の立役者

 攻撃陣の立役者は6年目の小郷裕哉だった。全試合トップバッターとして出場し、交流戦打点王の近藤健介(ソフトバンク)に1打点及ばなかったが、チームトップの13打点を叩き出し、チームの総得点(67点)の約2割を稼いだ。6月5日の阪神戦では九回二死、昨季の日本一の守護神・岩崎優から起死回生の逆転2ラン。8日の中日戦ではプロ初の満塁弾。11日の巨人戦では九回二死から逆転サヨナラ二塁打。打率は2割4分7厘(個人打撃成績33位)も、ここ一番での勝負強さが光った。

見事な用兵術

 今季から指揮を執る今江敏晃監督が用兵に見事な手腕を見せた。不振の島内宏明を交流戦が始まる前日に登録抹消。開幕当初はスタメンで起用していたが、調子が上がらない茂木栄五郎は代打で起用。茂木は7試合に出場し、4打数3安打1打点。代打の代打を送られることが二度あったが、代打打率7割5分という好成績を残した。

チームの顔を外す

 4番の不振が得点力を低下させているとの判断から、チームの顔というべき浅村栄斗を6月1日のヤクルト戦から4番を外した。さらにDHが使えない4日の阪神戦から6試合はベンチスタートで起用。そこからチームは5連勝と波に乗った。浅村は11日のスタメン復帰戦で、2-6の八回に追撃の2ランを放ち、小郷のサヨナラ打につないだ。自分の打撃を見つめ直す機会を得た効用か、その日以降は22打数7安打(3割1分8厘)2打点と復調した。

代役4番の躍動

 浅村の代わりに交流戦の最終戦まで4番に座った鈴木大地は、6月4日に通算1500安打、12日に全球団本塁打を達成するなど49打数15安打(打率3割6厘)6打点と躍動。交流戦の最終カードとなる広島戦での1試合2犠打を含む3犠打を記録し、つなぎ役としてもチームの勝利に貢献した。チームの勝利を最優先し、実績のあるベテランでもメンバーから外すことをためらわない決断力と実行力。不惑の新人監督は「四十にして惑わず」を実践した。

大きな「いただき!」

 リーグ5位以下からの交流戦の優勝は、06年のロッテ(交流戦前5位)、18年のヤクルト(同6位)、21年のオリックス(同5位)に次ぎ4球団目となる。18年のヤクルトは2位でシーズンを終え、21年のオリックスはリーグ制覇をした。今江監督は、今季のチームスローガン「いただき!」に絡めて、「交流戦の優勝は小さな頂だけど、シーズンが終わる頃には大きな頂の景色を皆さんにお見せできるようにしたい」と発言した。交流戦前に8あった借金を完済したチームは、大きな「いただき!」を次の目標に据えている。