佐藤輝、ミスタータイガースへ

主砲として大車輪の働き
 球団創立90周年の今季、首位を独走する阪神。チームの主砲として大車輪の働きをしているのが5年目の佐藤輝明だ。1年目に岡田彰布以来となる新人の二桁本塁打、田淵幸一の球団新人最多を更新する24本塁打を放つなど、スラッガーの片鱗を示した。入団から3年連続で20本塁打を以上を記録するも、昨季は16本止まり。今季は飛躍を期していた。

森下に代わり4番に
 2月のキャンプの紅白戦で藤川阪神「1号」。3月のMLBプレシーズンゲームでは、サイ・ヤング賞2度のドジャース、ブレイク・スネルから豪快な3ラン。これが打撃技術開眼の号砲だったのか――。開幕戦では今季初打席で2025年のプロ野球「第1号」。4月5日の巨人戦では球団通算8500号という記念弾で、伝統の一戦の勝利に花を添えた。当初は「初回に必ず打順が回る」(藤川監督)という考えのもと、3番で起用されていたが、同月15日から森下翔太に代わり、4番に定着。それまで6勝6敗1分だった阪神の快進撃は佐藤輝が4番に座ってから始まった。

広角打法が結実
  4月20日の広島戦では、甲子園のバックスクリーンの左へ2発。同月25日の巨人戦でも広い本拠地のバックスクリーンの左へと打ち込んだ。昨オフから取り組んでいる広角に打つ取り組みが実を結んでいる。それは甲子園特有の浜風対策としても威力を発揮するだろう。

バンテリンドームで4本
 6月5日に放った昨季に並ぶ16号は、通算100号というメモリアル弾になった。同月8日の関西ダービーでは、4-1の八回に森下が申告敬遠の後、ダメ押しの満塁弾。7月13日にはチームの85試合目で、21年と23年に記録した自己最多タイとなる24号。同月19日には再び伝統の一戦で、延長11回に自己最多となる25号決勝2ランを放ち、巨人の自力優勝の芽を摘んだ。球宴では新人の年以来となる通算2本目となるアーチを描く。8月5日の中日戦では、0-2の劣勢から試合前まで防御率0.98だった左腕・橋本侑樹から28号逆転3ラン。バンテリンドームでは昨季は本塁打がなかったが、今季は4本目。本塁打が出にくい球場でも柵越えできるのは、ボールをしっかりと捉えることができている証だろう。この勝利でチームは両リーグ一番乗りの60勝となった。

阪神の長距離砲は受難の時代
 8月月8日には両リーグ最速となる30号。阪神生え抜きのシーズン30本塁打以上は、球団史上初の日本一となった1985年の掛布雅之(40本)と岡田(35本)以来となる。91年オフに甲子園からラッキーゾーンが撤去されてから阪神の長距離砲には受難の時代となり、球団のキングは86年のランディ・バース(47本)、日本人選手では84年の掛布(37本)以来途絶えている。

ミスタータイガースへ
 1年目は長嶋茂雄以来、63年ぶりに新人で1試合3本塁打を放つも、59打席連続無安打のリーグワーストを記録するなど、好不調の波が激しかった。2年目からは2割6分以上の打率を維持し、確実性も兼ね備えた。8月25日現在、本塁打王のタイトルはほぼ確実にし、打点も2位の森下より7打点多い78。打率はリーグ9位の2割7分4厘(トップは広島・小園海斗の2割9分6厘)。三冠王を狙える打者へと変貌を遂げ、ミスタータイガースへと突き進む。

松山晋也、戦線離脱

右尺骨肘頭疲労骨折と発表
 最多セーブ投手賞に2度輝いたライデル・マルティネスの後継として、中日のクローザーを任されていた松山晋也が、「上肢のコンディション不良」(球団発表)で7月4日に出場選手登録を抹消された。球宴のセ・リーグの抑え部門のファン投票で、巨人に移籍したマルティネスに大差をつける53万票余りの人気を集め、1位で選出されるも出場を辞退。NPBからは右尺骨肘頭疲労骨折と発表された。

育成ドラフト1位で入団
 松山は八戸学院野辺地西高から八戸学院大学を経て、22年に育成ドラフト1位で中日に指名される。大学時代の公式戦初登板は3年秋と、遅咲きの選手だった。ルーキーイヤーの6月に支配下選手登録されると、一軍初マウンドで三者連続三振と派手なデビューを飾ると、36試合に登板。1勝1敗18HP、防御率1.27と頭角を現す。昨季は59試合に登板。6月から8月にかけて21試合連続HPを達成し、球宴にも監督選抜で初出場。2勝3敗43HP(防御率1.33)と飛躍し、最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得した。育成契約から球界を代表するクローザーに昇り詰めたマルチネス同様、ハングリーな経歴の持ち主だ。

獅子奮迅の働き
 今季も、6月27日に両リーグ最多となる28セーブを挙げ、チームの32勝目に貢献。昨季、チームの60勝のうち43Sを挙げたマルチネスを凌駕する獅子奮迅の働きを見せていた。井上一樹新監督のもと、3年連続最下位からの浮上を狙うチームは、この時点で3位のDeNAと広島に2ゲーム差と、CSを射程圏に入れていただけに、松山の戦線離脱はチームにとって痛手だ。

被本塁打は1本
 試合の大詰めの1点を争う場面で、マウンドに上がるクローザーの絶対的な条件として、被本塁打が少ないことが挙げられる。松山はプロ入り後、482人の打者と対戦し、被弾は5月にヤクルト・北村拓己に打たれた1本だけ。松山にとって、クローザーは天職と言えるだろう。〈打てるものなら打ってみろ〉と言わんばかりの精悍な面構えも守護神にふさわしい。

雄姿を待ち侘びる
 マルチネスは「優勝争いができるチームに行きたい」とチームを去ったが、松山とのダブルクローザーでシーズンを戦うことができれば、「天下を取れたのに……」。竜党は切歯扼腕の思いだろう。剛腕守護神の復帰には時間がかかりそうだが、中日の首脳陣もファンもその雄姿を待ち侘びている。