いざ2024年シーズン開幕

不安材料を残した阪神

 2月23日から約1ヵ月の日程で行われていたオープン戦が終わり、3月29日に公式戦が幕を開ける。勝率トップは10勝5敗(勝率6割6分7厘)で5つ引き分けがあった中日と2つの引き分けがあったソフトバンク。最下位は3勝14敗(勝率1割7分6厘)の阪神。昨年日本一に輝いたチームが、初戦から9連敗。対戦がなかったDeNAと広島以外のセ・リーグのチームからは勝利がなく、不安材料を残した。シーズンに入り、岡田彰布監督がチームをどう立て直すのか、その手腕に熱視線を注ぎたい。オープン戦で結果を残し、今季の活躍が期待される選手を取り上げてみる。

連覇のカギを握る新守護神

 投手では阪神の新外国人選手、パナマ出身のハビー・ゲラ。6試合に登板し、6イニングで自責点ゼロ。抑えの候補は背番号00と岩崎優の2人だが、岡田彰布監督はどちらかに固定せずに開幕を迎える方針のようだ。サウスポーの岩崎に対し、ゲラは右投げ。相手打線との兼ね合いで、ダブルストッパーという起用法もあり得るだろう。球団史上初のセ・リーグ連覇へ、新守護神の活躍は不可欠だ。

リベンジに燃えるドラ1

 防御率トップはヤクルトの吉村貢司郎。5試合に登板し、20イニングで防御率1.35(自責点2)。22年ドラフト1位で東芝から入団。大卒で社会人野球を経ての入団だっただけに即戦力として期待されたが、4勝2敗(防御率4.33)と精彩を欠いた。チームは22年にリーグ制覇も、昨季は最下位とゲーム差なしの5位に低迷。チームの浮上には、シーズンを通して先発ローテの一翼を担うことが求められる。

5勝はノルマ

 巨人・松井颯は5試合の登板で7回2/3を投げ、防御率2.35(自責点2)。11奪三振で、三振奪取率12.91をマークした。22年育成ドラフト1位で明星大学から入団。昨年5月の中日戦、プロ初登板初先発で初勝利を挙げるも、その1勝止まりだった。先発のフォスター・グリフィンが2回5失点で降板した3月16日の日本ハム戦では、2番手として登板し、2イニングを無失点に抑えた。先発が序盤で崩れたときの第二先発として、あるいはローテーションの谷間での先発として、今季から指揮を執る阿部慎之助監督の秘密兵器となりうる存在だ。力強いストレートを武器に、今季の目標として5勝を掲げている。

最速160キロのセットアッパー

 オリックスの新外国選手、ベネズエラ出身のアンドレス・マチャド。5試合に登板し、5回1/3を自責点ゼロに抑えた。奪三振は5で、三振奪取率は8.44。力感のあるフォームから投じるストレートは最速160キロを計時し、連投もできるタフさを兼ね備える。山崎颯一郎と宇田川優希がオープン戦に登板できないという非常事態の中で、三振を取れるセットアッパーとしてリーグ4連覇を狙う救援陣の切り札になる逸材だ。

新人首位打者

 野手では打率4割3分4厘でオープン戦首位打者となったDeNA・度会隆輝。新人のオープン戦首位打者は14年の井上晴哉以来史上2人目と報じられた。元ヤクルトの度会博文を父に持ち、昨年のドラフト1位でENEOSから入団。横浜高校時代は指名から漏れたが、ENEOSに進み、22年の都市対抗では橋戸賞、打撃賞、若獅子賞を受賞するなど実績を残した。ドラフト会議では中日、ロッテと競合の末、地元の球団が交渉権を獲得した。地元選手だけに球団やファンの期待も大きい。

ドラフト3位の好打者

 昨年のドラフト3位で日立製作所から入団した巨人・佐々木俊輔。オープン戦の初戦となる2月23日の阪神戦に6番中堅でスタメン出場。一回に先発・伊藤将司から左前適時打。昨年のチャンピオンチームを相手に名刺代わりの一打を放つと、以後安打を量産。岡本和真らの主力選手と同じ全16試合に出場し、45打数18安打。規定打席に1打席足りなかったが4割という打率を残した。18安打、3二塁打、7打点はいずれもチームトップ。同じ左打ちのDeNA・度会と新人王争いで火花を散らすか――。

イチローの再来!?

 広島の高卒4年目の田村俊介。18試合に出場し、50打数12安打(2割4分)。3本塁打と7打点はいずれもチーム最多だ。21年ドラフト4位で愛工大名電高から入団。1軍での出場は昨季の10試合のみだが、3月の欧州代表との強化試合では、代表の井端弘和監督に打撃センスを買われて、「侍ジャパン」に初選出。2試合目には5番左翼でスタメンに名を連ね、代表初安打となる左前打を放ち、存在をアピール。愛工大名電出身のドラフト4位といえば、イチローが思い浮かぶ。しかも偉大な先輩と同じ左打ち。希代の安打製造機と同様に3年目のブレイクとなるか――。

オープン戦のキング

 オープン戦のキングとなる5本塁打を放ったソフトバンク、アダム・ウォーカー。昨年巨人からトレードで加入し、鹿児島での古巣との対戦で代打逆転場外弾となる1号を放つ。あとの4本は本拠地ペイペイドームでのアーチ。22年には23本塁打、52打点で長打率.515をマーク。持ち前の長打力で、4年ぶりのV奪還を狙うチームのポイントゲッターとしての期待は高い。

快足で挑む!

 中日の三好大倫は20試合に出場し、65打数17安打(打率2割6分2厘)5打点。快足で4盗塁を決め、4年目のシーズンに飛躍を期す。外野は大島洋平、岡林勇希、細川成也でレギュラー枠は埋まり、そこへ新外国人選手のアレクサンダー・ディカーソン、21年ドラフト1位のブライト健太、ソフトバンクから移籍した上林誠知も定位置争いに加わる。熾烈な競争に、セールスポイントである足を生かし、どう挑むのか注視したい。

現役ドラフト

選手会ビジョン2019

 昨季、阪神・大竹耕太郎、中日・細川成也といった「現役ドラフト」の1期生が大ブレイクしたことで、この制度が一躍脚光を浴びている。日本プロ野球選手会は日本球界を発展させるために「選手会ビジョン2019」という提言を2019年に発表した。このビジョンは、①野球普及・育成環境の整備②魅力あるプロ野球の構築③引退後の充実―をテーマに掲げ、出場機会に恵まれない選手の移籍を活発化させる現役ドラフトの創設も含まれていた(その時点でNPBとの事務折衝で導入を要求していたようだ)。20年の導入を目指すも、新型コロナ禍で実施が先送りになり、一昨年にようやく実現をみた。

飛躍した大竹と細川

 大竹は済々黌高在学時、甲子園に出場。早稲田大学に進学し、 18年に育成ドラフト4位でソフトバンクに入団した。ルーキーイヤーは3勝(2敗)。翌年は106イニングを投げ、5勝(4敗)をマークしたが、21年から2年連続で2試合ずつの登板で勝ち星はなかった。古巣での5年間の通算成績は10勝9敗だったが、新天地での1年目に12勝2敗と躍動した。チームの貯金「32」の約3割を稼ぎ、18年ぶりのリーグ制覇に大きく貢献した。
 細川は17年にドラフト5位で明秀学園日立高からDeNAに入団。本拠地・横浜球場での中日戦で、プロ初打席で本塁打を放つと、翌日にも2試合連続弾。1年目に放った2安打がいずれも本塁打。長打率1.600と大器の片鱗を見せるも、6年間でレギュラーには定着できず、通算成績は123試合の出場で41安打、19打点、6本塁打。それが新天地では140試合の出場で131安打、78打点、24本塁打と大きな飛躍を遂げた。

現役ドラフト組に熱い視線

 技巧派の大竹は、速球派揃いのソフトバンクの投手陣の中で投手としてのアイデンティティを確立できなかったことも考えられる。器用さに欠く細川は、中日で2千安打を達成した和田一浩打撃コーチの指導がハマったとも言えるだろう。動物は環境に左右される。環境を変えることで「人」は変われるという好例である。昨年12月に2回目となる現役ドラフトが実施され、阪神・馬場皐輔(28)、中日・鈴木博志(26)、ロッテ・佐々木千隼(29)といったドラフト1位組も3人指名された。過去の栄光を忘れ、プロ野球選手として新たなスタートを切ることで大輪の花を咲かすことができるか――。そして実質2年目となる大竹や細川が昨季の活躍がフロックではなかったという成績を今季も残すことができるか――。現役ドラフト組に熱い視線を注ぎたい。