広島、6年ぶりのVへ

FA移籍した西川の穴

 今季の広島の課題は、昨季打率3割5厘(リーグ2位)、127安打、56打点といずれもチームトップの成績を残した西川龍馬がオリックスにFA移籍し、その穴をどう(誰が)埋めるかということだった。昨季は外野手で100試合以上出場した選手は秋山翔吾(114試合)、西川(109試合)、野間峻祥(104試合)の3人。今季外野手での出場は、秋山は102試合、野間は86試合、末包昇大は49試合、大盛穂は44試合、内野手登録の上本崇司は37試合。西川の後釜に座った選手はなく、新井貴浩監督は主に末包、大盛、上本を起用している。(記録は8月26日現在)

昨季との攻撃スタッツ比較

 攻撃のスタッツを昨季と比較すると、チーム得点は昨季493→今季331で共にリーグ5位。チーム打率は2割4分6厘→2割3分9厘で共にリーグ4位。チーム本塁打は96本塁打(同4位)→45本塁打(同6位)。長打率は.357(同4位)→.320(同6位タイ)。出塁率は3割4厘(同5位)→2割8分8厘(同6位)。期待の新外国人選手、マット・レイノルズとジェイク・シャイナーは前者が2試合、後者が12試合の出場に留まり、チームの攻撃スタッツ上でも西川の穴は埋めきれていない。

チーム防御率トップの投手陣

 そういうチーム状態でもペナントレースで先頭を走っているのは投手陣に負うところが大きい。チーム防御率は昨季3.20(同4位)→今季2.27(同1位)と1点近く向上している。2018年の最多勝と最高勝率のタイトルホルダーで、5年連続で開幕投手を務めていた大瀬良大地が昨季は6勝11敗(防御率3.61)と精彩を欠いた。昨秋に自身3度目の右肘の手術をし、復活のシーズンである今季、6月7日に無安打無得点試合を達成。リーグトップの防御率(1.38)を残し、5勝3敗。昨季は二桁勝利を挙げた先発投手は11勝の床田寛樹だけだったが、今季はすでに床田と森下暢仁がマーク。開幕投手の九里亜蓮、昨季4年ぶりに1軍のマウンドに上がったアドゥワ誠が6勝と続いている。

絶対的な守護神

 チームのセーブ数も昨季46→今季37で共にリーグトップ。昨季は入団以来2年連続で30セーブを達成していた守護神、栗林良吏が3月開催のWBCでは腰の張りで大会途中に離脱。4月に登録抹消されるなど、守護神の座を矢崎拓也に譲った。今季はリーグトップタイの34セーブ(防御率0.98)を挙げ、ルーキーイヤーにマークした自己最多(37セーブ)を上回るペースだ。栗林が絶対的な守護神としての働きをすることが6年ぶりの覇権奪回への必須要件になる。

これからが正念場

 昨季は7月27日に2019年以来となる10連勝で首位に浮上するも、翌日の阪神との首位攻防戦に敗れて2位に転落。その後首位に返り咲くことはなく、最終的には11.5ゲーム差がついた。今季は8月1日のDeNA戦に勝利し、首位に再浮上。8月以降の首位は、リーグ3連覇した18年以来と報じられた。これからが広島にとって正念場となる。

2024/8/30記

前半戦首位ターンの巨人

3年連続トラに負け越し
 巨人の往年の名遊撃手・広岡達朗の現役時代を知る母が「今年、巨人は阪神に勝たないとあかん」と呟いた。事実、巨人は2021年から3年連続で阪神戦に負け越している。2リーグ分立後、伝統の一戦の年度別対戦成績は巨人の勝ち越しが56度、阪神の勝ち越しが13度(タイが5度)。巨人は1986年~02年までの17年連続勝ち越しなど阪神を圧倒している。巨人の2年連続以上の負け越しは、1984年~85年、03年~05年、前述のわずかに3度。今季負け越すと伝統の一戦史上初の4年連続となる。

21世紀は阪神が奮闘
 阪神が38年ぶりの日本一に輝いた昨季、巨人戦で18勝を挙げ、12の貯金をつくった。これは共に阪神の伝統の一戦での最多記録であった。21世紀に入ってからの年度別対戦成績は巨人の勝ち越しが12度、阪神の勝ち越しが7度(タイが4度)と、阪神の奮闘が目立つ。阪神が強くなったのか? それとも巨人が弱くなったのか?

大誤算からのスタート
 前半戦をセ・リーグ全球団に勝ち越し、8つの貯金をつくって首位で折り返した巨人だが、4位阪神までは3.5ゲーム差。首位と2位が10ゲーム差あるパ・リーグと対照的に大混戦だ。今季の巨人は大誤算から始まった。MLB通算178本塁打で大砲として期待したルーグネット・オドーアが、2軍調整を受け入れずに、シーズン開幕前に退団。阿部慎之助新監督の構想は戦いが始まる前に崩れ去ったが、5月28日のソフトバンク戦で1軍デビューしたエリエ・ヘルナンデス(29)が中堅のレギュラーに定着。41試合で163打数52安打(打率3割1分9厘)6本塁打23打点と打撃だけでなく守備でも存在感を発揮している。野手のウィークポイントは三遊間だ。坂本勇人は66試合の出場で2割2分4厘。坂本の後継者と目された門脇誠は打撃不振でスタメンから外れ、ドラフト4位ルーキー泉口友汰が取って代わるも47試合の出場で打率は2割1分1厘。米国出身のココ・モンテス(27)を緊急補強した。MLBロッキーズ傘下の3Aでは64試合で打率3割3分5厘、9本塁打、47打点の成績を残し、内野は複数ポジションを守れる。後半戦の野手陣のキーマンだろう。

トリプルエース
 先発陣は初めて開幕戦に先発し勝利投手になった戸郷翔征が、5月24日の阪神戦で史上89人目の無安打無得点試合を達成。巨人では沢村栄治以来となる甲子園での快挙だった。今季は相手チームのエースとの投げ合いが多く、7勝5敗(防御率2.11はリーグ8位)と貯金はそれほど稼げていないが、巨人投手陣でもっとも長い115イニングを投げ、先発陣を牽引している。21年は6勝7敗、23年は4勝8敗と負け越し、限界説が囁かれる菅野智之だが、8勝2敗、規定投球回未達も防御率2.21と好調だ。34歳になる旧エースが後半戦もこの調子を維持できれば、阿部監督にとって非常に心強い。その2人に負けじと奮闘しているのが4年目の山﨑伊織。昨季初めて二桁勝利を挙げ、飛躍が期待された今季、7勝2敗で防御率1.67(リーグ4位)とエース級の働きをしている。一方、先発陣の誤算は0勝6敗の赤星優志だろう。防御率は3.17も勝負どころで痛打を浴びるケースが目立つ。1、2年目でともに5勝5敗の成績を残して臨んだ今季だが、結果を出せていない。昨季は8月24日以降で5勝を挙げた。勝負となる8月、9月に戦力になれるか。

伝統の一戦がペナントの行方を左右
 今季の前半戦での伝統の一戦の戦績は巨人の8勝6敗1分け。巨人は戸郷が3勝、山崎伊が1勝。阪神の大竹耕太郎に2度、才木浩人に1度土をつけている。エースで確実に白星を手にし、相手のエースから白星を奪っている傾向があり、精神面でも優位に立っている。後半戦の課題は、2度白星を献上し、12イニングで無得点、15三振を奪われているジェレミー・ビーズリーをどう攻略するのか――。また3度敗戦投手になった赤星の代わりに誰を先発で起用するのか――。後半戦の伝統の一戦は、今季のセ・リーグのペナントの行方を左右するのかもしれない。(記録は7月21日時点)。