杉本裕太郎、初キング

青学コンビ

今季32本のアーチを描き、初めて本塁打王のタイトルを獲得したオリックス・杉本裕太郎。2学年下の吉田正尚との“青学コンビ”で打線を牽引し、チームの25年ぶりのリーグ制覇の立役者の一人となった。

吉田正がドラフト1位で入団した2015年に球団の最終指名となるドラフト10位でプロ入り。昨季まで5年間の通算成績は47安打(9本塁打)だった。17年のシーズン成績は2安打のうち本塁打が1本。18年は3安打(2本塁打)、19年は8安打(4本塁打)とパワーは誰しも認めるところだったが、粗さが同居していた。

長打力と確実性の二兎

昨季それまでで最多の41試合に出場。本塁打は2本に終わったが、2割6分8厘の打率を残し飛躍のかすかな萌芽はあった。今季は134試合の出場で144安打を放ち、初めて規定打席に到達。打率.301(リーグ3位)、長打率.552(吉田正に次ぐ同2位)と長打力と確実性の二兎追うことに成功した。

5月11日の日本ハム戦では、杉本の入団時にオリックスのエースだった金子弌大から東京ドームの看板直撃の特大弾を放ち、賞金100万円を獲得するとともに、かつての沢村賞投手に成長した姿を見せた。オールスターにも監督推薦で初出場。第2戦で中日のエース・柳裕也から本塁打を放ち、敢闘選手賞を受賞した。シーズン中何度か2割台に打率を下げたが、最終的には3割をキープ。そこにも進化の跡があった。

チームの攻撃力アップ

開幕戦の打順は6番。4月まではスタメンから外れることも多かったが、5月には4番に定着。中嶋聡監督はシーズン序盤、吉田正を2番に起用するなど打順を試行錯誤していたが、杉本の潜在能力が開花したことにより、吉田正を3番に固定。後ろに杉本がいることで相手バッテリーは吉田正との勝負を避けることができなくなり、吉田正は昨季より10試合少ない出場試合数ながら、打点は昨季64→今季72、本塁打は昨季14→今季21に増えた。昨季は吉田正の孤軍奮闘の感があったオリックスだが、チームの得点は昨季442(リーグ6位)→今季551(同3位)、チームの本塁打数は昨季90(同4位)→133(同1位)。相乗効果でチームの攻撃力は大きく向上した。

球団からの本塁打王は10年のT-岡田以来。日本人選手の3割30本以上は89年の門田博光以来となる。生え抜き選手だと、前身の阪急時代の87年に石嶺和彦がマークして以来となり、球団やファンが待ち望んだ確実性を兼ね備えた和製スラッガーの誕生だった。

ラオウの昇天ポーズ

昨季2軍監督だった中嶋監督は監督代行になった際に、打率が1割台の中川圭太を4番に据えるなど若手を大胆に抜擢した。杉本もその“中嶋チルドレン”の一人。今季は期待に見事に応え、恩返しをした。その恩師を再び胴上げする大きな仕事が残っている。本塁打を放った後のラオウの昇天ポーズはオリックスファン以外にも認知度は着々と高まっている。ポストシーズンでも杉本が拳を突き上げるシーンが増えれば、次なる目標である25年ぶりの日本一は俄然現実味を帯びてくる。

村上宗隆、最年少100本塁打

21歳7ヵ月での達成

村上宗隆(ヤクルト)が9月19日の本拠地・神宮球場での広島戦で通算100本塁打を放った。1989(平成元)年の清原和博(西武)を抜き、史上最年少となる21歳7ヵ月での達成となった。高校時代は清原同様、1年生で4番を任されるが、甲子園に5度出場し優勝2度、準優勝2度、ベスト4が1度の清原に対し、村上は唯一出場した1年夏に自身無安打で初戦敗退している。プロ入り後もルーキーイヤーからレギュラーに定着し、31本の本塁打を放ち、新人王を受賞した清原に対し、村上はプロ初打席初本塁打という離れ業を演じるも、1年目は6試合の出場で12打数1安打とプロの高い壁に阻まれた。

2年目に大ブレーク

2年目にはレギュラーに定着。全143試合に出場し、打率は2割3分1厘、184三振ながら36本塁打、96打点(共にセ・リーグ3位)を挙げ、高卒2年目以内の選手の打点の記録を塗り替えるとともに、本塁打では中西太(西鉄)に並ぶタイ記録となった。このシーズンはオールスターにもファン投票で選出され、新人王争いでもセ・リーグの新人最多安打記録をつくり、盗塁王を獲得した阪神・近本光司を僅差で制するなど、大ブレークを果たした。

3年目に”長足の成長”

3年目となった昨季。コロナ禍で開幕が6月にずれこみ、試合数も120試合に削減された異例のシーズンだったが、村上のバットは一層輝きを増した。3割7分(セ・リーグ5位)とプロ入り後初めて打率を3割に乗せ、28本塁打、86打点(共に同2位)をマーク。レギュラー1年目の19年に日本人選手シーズン最多三振記録をつくったことからも窺えるように、本塁打か三振かというイメージを払拭し、長打率を維持しつつ確実性を高めることに成功。19年比較で長打率は.481→.585、出塁率は.332→.427と大幅にアップ。三振数も184→115と激減、数字が大きいほど選球眼に優れ、バットに当てる能力が高く三振しにくい打者であるといえるBB/Kは0.40→0.76に向上。最高出塁率者賞を獲得し、ベストナインにも選ばれ、わずか1年で”長足の成長”を遂げた。

東京五輪で金メダルに輝く

日本代表の稲葉篤紀監督は東京五輪のメンバーに、昨季本塁打王と打点王を獲得した巨人・岡本和真ではなく、正三塁手として村上を選んだ。金メダルに輝いた侍ジャパンの一員として、全5試合に8番・三塁手として先発出場し、15打数5安打3打点。アメリカとの決勝戦で放った先制ソロがひときわ強く印象に残る。稲葉監督の期待に見事に応えた打棒で、五輪の正式競技で初の金メダル獲得に貢献度大だった。

6年ぶりのリーグ制覇へ

今季も終盤になり、ヤクルトは、阪神、巨人との激しい優勝争いの真っただ中にいる。4番に座る村上のバットにかかる高津臣吾監督の期待も自ずと大きくなる。9月26日の中日戦では今季100打点をマーク。21歳での到達は、岡本和が持っていた最年少記録を更新した。その岡本和との本塁打、打点部門でのタイトル争いも熾烈になっていくだろう。将来の侍ジャパンの4番と目される若きスラッガーが重圧に打ち克ち、東京五輪での金メダルに続き、チームの6年ぶりのリーグ制覇を手繰り寄せる打撃ができるかが大いに注目される。