寅年のトラ

寅年の成績

今年は寅年。昨季は両リーグ最多の77勝を挙げ、2位に最大7ゲーム差をつけながら5厘差で優勝を逃した阪神だが、今季はどのような戦いを見せてくれるのだろうか。NPBが誕生したのが1936年。これまでの阪神の寅年の成績は、38年に石本秀一監督の下で年度優勝(春季は阪神、秋季は巨人が優勝し、年度優勝決定戦で巨人を下す)。2リーグに分立した50年は松木謙治郎監督の下で4位。62年には、初代巨人監督で1リーグ時代に巨人を7度優勝に導いた名将・藤本定義を迎え、2リーグ制下での初優勝。74年は金田正泰監督の下で4位。日本一に輝いた翌年の86年は吉田義男監督の下で3位。98年は第二次吉田政権で最下位。2010年は真弓明信監督の下で、中日に1ゲーム差の2位。寅年は優勝2度、2位と3位は1度ずつ、4位は2度、最下位は1度という成績を残している。

昨季は新人が躍動

昨季は新人が躍動した。ドラフト1位の佐藤輝明は田淵幸一の持っていた球団新人記録や新人左打者の最多本塁打記録を更新する24本塁打を放った。5月は28日の西武戦で、58年の長嶋茂雄以来となる新人の1試合3本塁打を放つなど、6本塁打(19打点)と躍動し、月間MVPを受賞。ドラフト2位の伊藤将司は阪神の新人左腕では67年の江夏豊以来となる二桁勝利(10勝7敗)を挙げた。プロ1年目で、スタミナ切れをせずに10・11月度の月間MVPを受賞。ドラフト6位の中野拓夢は30個の盗塁を決め、盗塁王のタイトルを獲得。新人特別賞を受賞した3人の若虎たちに引っ張られるように、シーズン前半にチームは躍進した。

若さと未熟さ

ただ若さと未熟さは表裏一体だ。佐藤輝は優勝争いが佳境を迎えたシーズンの終盤で59打席連続無安打という野手のプロ野球ワースト記録をつくった。後半戦はわずかに4本塁打と失速し、チームの攻撃力低下の一因となった。また中野は守備の名手という触れ込みで、遊撃手として初となるシーズン無失策を目標に掲げたが、両リーグ最多失策(17個)を記録し、投手陣の足を引っ張った。

V逸の最大の要因

昨季のV逸の最大の要因として、投打の主軸の不在が挙げられる。開幕投手の藤浪晋太郎は3勝3敗と精彩を欠き、先発の柱となるべく西勇輝が6勝9敗と、3つの負け越し。「西勇が貯金を3つ作ってくれていれば……」とは、首脳陣やファンの共通した想いであったろう。青柳晃洋が初の二桁勝利となる13勝(6敗)を挙げたが、やはりエースの働きがチームに勢いをもたらす。

4番の不在

攻撃に目を転じれば、絶対的な4番の不在である。昨季4番に座ったのは4人。大山悠輔は93試合、ジェフリー・マルテは32試合、佐藤輝明は11試合、ジェリー・サンズは7試合と固定できなかった。4人の中で打率、本塁打、打点のトップは、大山の2割6分、佐藤輝の24本、大山とマルテの71打点と、4番として物足りない数字だった。出場試合数をみると、大山は129試合、マルテは128試合、佐藤輝は126試合、サンズは120試合と欠場も多かった。ヤクルト・村上宗隆や巨人・岡本和真が全試合に出場したように、常時出場し、30本塁打・100打点をクリアできるような“不動の4番”の出現が待たれる。また昨季期待外れだったメル・ロハス・ジュニアが日本の野球に慣れ、2020年に韓国プロ野球でマークした3割4分9厘、47本塁打、135打点の打棒を発揮できるかもチームの浮沈のカギを握る。

今季の不安材料

昨季の最後の公式戦となったCSファーストステージ第2戦は、阪神が抱える問題点を浮き彫りにした。巨人に2-4で敗れたが、自責点ゼロながら4失点。守乱が大一番で発症し、勝負どころでの弱さを露呈した。4年連続でリーグワーストの失策数という汚名を返上しなければ、Vロードは開けない。救援陣に目を向けると、2年連続で最多セーブ投手賞に輝いたロベルト・スアレスの穴を埋められるかが焦点になる。クローザーとして前パイレーツのカイル・ケラーと契約を締結したと報じられたが、昨季62試合に登板し、被本塁打ゼロ、防御率1.16と抜群の安定感を誇った守護神の代役を探すのは容易ではない。

勝負の年

昨季、青柳が最多勝と最高勝率のタイトルを獲得。近本光司が最多安打のタイトルを獲得し、ベストナインとゴールデン・グラブ賞に選出。18年から3年連続でゴールデン・グラブ賞に選ばれた梅本隆太郎など、タレントは揃っている。その才能をどう生かせるか、矢野燿大監督の手腕が問われる。19年から3年契約で指揮を執った矢野監督。1年目は3位、2年目は2位、ホップ・ステップと順調にステップを踏み、ジャンプを狙った昨季――。優勝したヤクルトに13勝8敗(4分)、巨人には13勝9敗(3分け)と14年ぶりに勝ち越しながらもV逸。今季は“勝負の年”になる。

牧秀悟、新人4人目の3割20本塁打

”何か”を持っていた

今年ドラフト2位で中央大学から入団したDeNA・牧秀悟。オープン戦では、三浦大輔監督からは右方向への進塁打など、状況に応じた打撃を評価されていたが、9試合に出場し打率2割7分3厘、本塁打はゼロ。6本塁打を放ち、オープン戦本塁打王に輝いた阪神の大物ルーキー・佐藤輝明の陰に隠れて、注目度は低かった。それゆえ、実績で勝負という意識が自然に醸成されたのかもしれない。またキャンプ中の一軍と二軍による紅白戦で坂本裕哉から初打席で本塁打を放ったり、オープン戦初戦のオリックス戦で、球界のエース・山本由伸から初打席の初球を安打するなど、“何か”を持っていた。

新人として数々の勲章

シーズンを通じてDeNA打線の中軸として機能し、137試合の出場で、チームトップの打率3割1分4厘(リーグ3位)、22本塁打(同8位)、72打点(同8位)、長打率5割3分4厘(同3位)。打率は1954年の広岡達朗と並び2リーグ制後の新人右打者の最高打率、シーズン153安打は58年の長嶋茂雄(巨人)と並ぶセ・リーグ新人歴代2位、シーズン14度の猛打賞は同じく長嶋と並ぶ新人最多タイなど、新人としては破格の成績を残した。加えて、新人の3割20本塁打は、長嶋、81年の石毛宏典(西武)、86年の清原和博(西武)に次ぐ史上4人目で、ルーキーイヤーは球史に名を残すスラッガーに肩を並べる活躍だった。

勝負強い打撃

4月6日の中日戦で球団通算8000号のメモリアルアーチを放ち、8月25日の阪神戦でレギュラーシーズンでの新人初のサイクル安打を達成するなど、勝負強い打撃を披露した。9月28日のヤクルト戦で今季117本目の安打を放ち、59年の大学の先輩、桑田武の球団新人記録に並んだ。翌日にはその記録を更新し、球団史に名を刻んだ。

10月は独擅場

佐藤輝が8月~10月にかけて59打席連続無安打と極度の不振に陥ったのとは対照的に、10月は牧の独擅場だった。6日にケガのオースティンに代わり4番に座ると、19日に打率を3割に乗せた。その後、リーグ新人初となる4度目の1試合4安打、プロ野球記録となる5打席連続二塁打、長嶋を抜くリーグ新人最多記録のシーズン35本の二塁打。13日の広島戦から最終戦まで9戦連続安打を放ち、シーズンの最後まで手綱を緩めなかった。10月は全19試合に出場し、打率4割5分2厘、33安打(11二塁打)、6打点。10・11月度の月間MVPを受賞した。

ハイレベルな新人王争い

今年のセ・リーグの新人王はハイレベルな争いとなったが、新人最多タイとなる37セーブを挙げた広島・栗林良吏が受賞した。有効投票数306のうち、栗林が201票、牧が76票と大差がついた。プロ野球担当記者らによる投票で決まるため、栗林が東京五輪の全5試合で2勝3セーブを挙げ、金メダル獲得に大きく貢献したことも印象度アップにつながった側面はある。昨年までで、セ・リーグの新人王に該当者がなかったシーズンは4度あり、今年がそんなシーズンだったら、間違いなく新人王に選ばれる成績を残した。

選球眼を磨き“好球必打”

今季の牧は四球は27個で、規定打席到達者32人の中で5番目に少なかった。選球眼に優れ、バットに当てる能力の高さを表すBB/Kは0.32と低かった。ルーキーイヤーの長嶋も四球は36個。2年目はほぼ倍の70個の四球を選び、BB/Kは0.68→1.75と大幅に向上。それに伴い、打率も3割5厘→3割3分4厘、長打率も5割7分8厘→6割1分2厘と上昇した。来季の牧は、選球眼に磨きをかけ“好球必打”を心がければ、さらなる打撃成績の向上が見込める。来季は真価が問われるシーズンになる。