栗山、2000安打へ

西武の最多安打記録

野村克也、土井正博、山崎裕之、秋山幸二、清原和博、松井稼頭央、和田一浩――。西武のユニフォームに袖を通した通算2000安打を達成した選手は多い。しかし、それは他球団での安打数を含めた数字であって、西武球団単独で2000安打を達成した選手は1979(昭和54)年の球団誕生以来まだいない。西武球団での最多安打記録は81~94年に在籍した石毛宏典が持っていた1806本だったが、それを2019年に塗り替えたのが栗山巧だ。昨季は101安打を放ち、通算1926安打とし、今季20年目のシーズンを迎えた。

ライオンズの“顔”

育英高校からドラフト4位で2002年に入団。5年目には84試合に出場。規定打席未達も、打率2割9分7厘、10本塁打を放ち、頭角を現す。これまで西武一筋で3割3度、08年には最多安打のタイトルを獲得。08、10、11年には外野手部門で、20年には指名打者部門でベストナインに選ばれ、10年にはダイヤモンドグラブ賞を受賞している。07年から14年連続で100試合以上に出場し、派手さはなく、知名度は低いが、同期の中村剛也と共に野手最年長であり、ライオンズの“顔”である。

特徴はユーティリティーの高さ

栗山の特徴はユーティリティーの高さだ。2008年には2番打者として22犠打を記録しながら、打点は74。つなぎ役とポイントゲッターの一人二役をこなした。通算100本塁打達成はNBP史上2番目のスローペースでありながら、17年には0-0から代打サヨナラ3ランを放つなど、勝負を決める一発もある。昨季は中村や山川穂高、森友哉といった主力打者の不振で4番に座り、シーズン自己最多タイの12号を放つなど3~7番の打順でアーチをかけ、どの打順でも自分の役割を果たすことができる。指揮官にとっては、非常に使い勝手が良く、重宝する選手である。

勲章の数字へ再スタート

今季の開幕戦では初回にオリックスのエース・山本由伸から2点目となる適時打を含め2安打を放ち、勝利に貢献。幸先の良いスタートを切ったが、足の張りのため、1試合のみの出場で戦線離脱。復帰戦となった30日のオリックス戦では代打で遊ゴロ併殺打に倒れたが、バットマンとして勲章の数字へ再スタートを切った。栗山が山賊打線で担うのは、打線のつながりをスムーズにする潤滑油のような役割ではないだろうか。2年ぶりの覇権奪回を狙う西武の攻撃陣の欠かせないピースであり、辻発彦監督も戦列復帰を待ち望んでいただろう。

NPB通算2000安打達成者の西武在籍時の安打数

選手名西武
在籍年数
西武在籍時
安打数
NPB通算
安打数
松井稼頭央1014392090
清原和博1113532122
秋山幸二1112242157
和田一浩1110322050
山崎裕之66702081
土井正博32652452
野村克也2582901

《余談》

栗山の直近5年の試合種類別打撃成績

D打率D本塁打N打率N本塁打
2016年.3312.2511
2017年.2124.2735
2018年.3406.2132
2019年.2431.2576
2020年.3604.2398
(注)D打率、D本塁打はデーゲーム、N打率、N本塁打はナイトゲームでの数字。
(出所)西武ライオンズ公式サイト                     

デーゲームで3割3分超が3度に対し、ナイトゲームでは最高打率が2割7分3厘と、デーゲームに強い傾向がある。本塁打は19年以降、ナイトゲームでよく打っている。打率はデーゲームとナイトゲームでは1年おきに高低が入れ替わり、今季は周期的にはナイトゲームのほうが高くなるが……。

山本、開幕戦連敗ストップに挑む

開幕戦9連敗中のオリックス

岡田彰布監督の就任年である2010年の開幕戦を白星で飾ったのを最後に、開幕戦での勝利がないオリックス。11年は先発・木佐貫洋が9回を投げ、自責点2と好投するも引き分け。翌年からの開幕戦の連敗は「9」にまで伸びている。連敗中の開幕戦の試合内容を見てみると、先発投手は9試合すべてで5イニング以上投げ、クオリティ・スタート(6イニング以上投げて、自責点2以内)が7試合。残りの2試合も先発はいずれも5回を投げ、自責点は3と2で開幕投手は試合をつくってはいる。1点差負けが4試合、2点差負けが3試合と善戦しているが、2試合の逆転サヨナラを含む延長戦にもつれこんでの敗戦が4試合あり、どうも勝利の女神にそっぽを向かれている印象がある。

tRAは2年連続トップ

今季から正式な指揮官となる中島聡監督は5年目の山本由伸を初の開幕投手に指名した。19年には最優秀防御率、昨季はシーズン終了間際に千賀滉大(ソフトバンク)にかわされ、僅差で防御率2位に終わったものの、最多奪三振のタイトルを千賀と分け合った。

野球のデータを統計的に分析するセイバーメトリクスで、tRA(true Runs Allowed)という指標がある。従来、投手の能力を測る代表的な数値は、自責点をもとに算出する「防御率」だったが、自責点はチームの守備力や救援陣の能力に影響を受ける。

「どのような打球が発生したかまでは投手の責任」という考えに基づき、四死球、奪三振、被本塁打、ゴロ、内野フライ、外野フライ(本塁打を除く)、ライナーという各事象の失点期待値とアウト期待値から算出するのがtRAだ。チームの守備力や救援陣の能力を除外した「真の失点率」といえる数値で、奪三振や内野フライ、ゴロが多く、被本塁打や四死球、ライナーが少ない投手ほど評価は高くなる。
(注)ゴロはアウトだけでなく安打も含めて、ゴロという性質の打球を意味する。

山本は19、20年と規定投球回数到達者ではtRAが両リーグを通じてトップで、今や日本球界のエースと言える存在だ。2年連続で最下位に沈んだチームを率いる中島監督の僥倖は一番勝てる確率が高い投手が“持ち駒”にあるということだ。それは開幕9連敗中のチームにとって“希望”でもある。

大きな意味を持つ一戦

山本はオープン戦で3試合に先発。18イニングで自責点は4(防御率2.00)。嶺井博希(DeNA)や大城卓三(巨人)といった下位打線の打者に本塁打を浴びているのは気がかりだが、仕上がりは順調といえるだろう。開幕戦の対戦相手・西武との相性は、19年は3試合に先発し2勝(1完封、防御率0.37)、昨季は4試合に先発し2勝1敗(防御率0.93)。両年とも被本塁打はゼロと抑え込んでいる。一方の西武の開幕投手も7年目で初の大役となる高橋光成。昨季はオリックス戦に4試合先発し3勝1敗(1完封、防御率1.93)。対戦カード別では最も多い勝利数を挙げ、オリックス戦にはいいイメージを持っているだろう。今季、大黒柱としての働きを期待される若きエース同士の対決となった。

今季、初の二桁勝利を目指す山本にとっても、正式な指揮官として初采配となる中嶋監督にとっても、大きな意味を持つ一戦となる。開幕戦9連敗でのオリックスの1試合あたりの得点は約2.2点(完封負けが2回)。打線の奮起も期待されるが、まずは先発が最少失点に抑えることが最重要課題になる。勝利の女神を微笑ませる“快投”を山本が見せることができるか、大いに注目される。