開幕戦の投手の本塁打

■開幕戦の投手のアベック弾

コロナウイルス禍で3カ月遅れた異例のシーズンの開幕戦は波乱含みの展開になった。開幕投手の阪神・西勇、広島・大瀬良が本塁打を放ち、同一年のシーズンの開幕戦で2人の投手がアーチをかけるのはプロ野球史上初の快挙。開幕戦での投手の本塁打は2008年の川上憲伸(中日)以来で、12、13人目(14、15本目)。西勇は12年目、大瀬良は7年目でのプロ初本塁打だった。

■82年ぶりの快打

西勇は巨人のエース菅野から今季のチーム初安打となるソロ。次の打席でも適時二塁打を打ち、2打数2安打2打点と躍動。6回4安打1失点で勝ち投手の権利を残して降板したが、救援が打たれて惜しくも開幕戦の初白星を逃した。阪神の投手の開幕戦での本塁打は1938年春の御園生崇男(みそのお・たかお)以来82年ぶり。投手として127勝、打者として506安打を記録した1リーグ時代のレジェンドにスポットライトを当てる快打になった。

■大瀬良デイ

大瀬良は五回に同点適時打、七回には犠打、九回に自らの完投勝利をアシストする2 点本塁打を放つなど大技小技が冴え、3打数2安打3打点。投げては九回1失点と、まさに“大瀬良デイ”という趣で、敵将のラミレス監督が脱帽するのも無理はなかった。大瀬良は「いつかは打ちたい」と思っていたそうだが、プロに入って投手専業になった選手も高校時代はほとんどがエースで中心打者。400勝投手の金田正一は38本の本塁打を放っているし、打撃センスに恵まれた投手は多い。

■意外性のある打棒

昨年の日本シリーズでソフトバンクに4連敗した巨人・原監督が、「(セ・リーグも)DH制を使うべき」との持論を展開した。DHが入る強力打線と常に対戦していることがパ・リーグの投手陣を逞しく育てているというわけだ。テレビやラジオの放送では、投手の打点を「自らを助ける一打」と表現されることが多い。いにしえより「天は自ら助くる者を助く」というし、投手の意外性のある打棒もプロ野球の魅力ではないだろうか。

■西勇が続投していれば…

開幕戦で本塁打を放った投手の勝ち負けをみると(下表を参照)、11勝1敗(勝ち負けつかずが3試合)。本塁打を打ったから気分良く投げられるのか、投球内容がいいから打棒も光るのか(自分で打つしかないという悲壮な決意の本塁打もあったかもしれないが)。そこに西勇が続投していれば…という、”If”がある。

開幕戦で本塁打を打った投手

年度投手名所属相手打点勝敗
1938春御園生崇男タイガース阪急1
1948別所昭南海阪神2
1949白木義一郎東急巨人1
1954西村貞朗西鉄東映2
1962金田正一国鉄大洋1
1965金田正一巨人中日1
1968皆川睦男南海阪急1
1969木樽正明ロッテ南海1
1971平松政次大洋ヤクルト1
1975平松政次大洋巨人3
1980池谷公二郎広島阪神1
2004べバリンヤクルト横浜1
2008川上憲伸中日広島1
2020西勇輝阪神巨人1
2020大瀬良大地広島DeNA2

出所:スポーツニッポン

  • 太字の投手名はプロ初本塁打
  • 打点は本塁打での打点
  • 勝敗は投手の勝敗

オリックス、令和初の開幕戦

異例のシーズンの幕開け

2020年のプロ野球は新型コロナウイルスの影響で、6月に開幕戦が行われるという異例の事態になった。11月の日本シリーズ開催までに120試合を終えるとなると、かなりの過密日程になり、選手には過酷なシーズンとなる。また疲労の蓄積から免疫力が低下し、感染リスクが拡大することも懸念されている。

日本のプロ野球史上かつてない状況下でシーズンを戦い抜くには、例年以上に戦力に厚みが求められ、また選手のサポート体制や戦力の補強など、フロントも含めた総合力で勝る球団が最後に笑うことになりそうだ。

開幕投手は山岡

開幕が当初の予定より3カ月ずれこんだので、選手は実戦に向けての調整に苦労しているのではないか。とりわけチームのシーズン最初の試合で先発マウンドに立つ開幕投手はかつてない状況下で、メンタル面を含めた調整の難しさがある。

1996年に日本シリーズで巨人を倒して日本一になったシーズン以来、12球団の中でリーグ優勝から最も遠ざかっているオリックス。2010年に金子(現・日本ハム)が楽天・岩隈(現・巨人)との息詰まる投手戦を制し、1-0で開幕戦を飾ったのを最後に、開幕戦は9年連続で勝てていない(2011年は引き分け)。

今季は本拠地・京セラドームで楽天と対戦。令和初の開幕投手は昨年プロ入り初の二桁勝利をあげ、勝率第一位投手賞も獲得した山岡が2年連続で指名された。山岡はオープン戦で3試合に先発し17イニングを投げ、防御率は2.12。3月6日の対巨人戦では、菅野とのエース対決を制し、勝利投手になっている。6月5日の広島との練習試合では先発で4~7回を三者凡退に抑えるなど7回1安打無失点と、仕上がりは万全だ。また楽天戦は一昨年は2勝1敗(防御率1.31)、昨年は6勝1敗(防御率2.12)と得意にしているのも好材料だ。

24年ぶりの制覇の試金石

昭和から元号が変わった平成元(1989)年の開幕戦。オリックス元年でもあるこのシーズン、佐藤義則の開幕戦での完封勝利でチームは勢いづき、ブーマーの開幕5試合連続本塁打などブルーサンダー打線が爆発。投打の相乗効果でチームは破竹の開幕8連勝を飾り、シーズン終了間際まで優勝争いをする原動力になった。2010年も3月は7勝1敗とし、その余勢を駆って交流戦の優勝につなげた。

開幕戦はレギュラーシーズンの試合数分の1ではないとよくいわれる(今季の場合は1/120)。戦力的に劣るチームや優勝から遠ざかっているチームほど、開幕ダッシュが必要で、開幕投手はエースの称号であると同時に、チームの浮沈のカギを握る大役である。昨年オフには1憶円で契約更改。在籍3年での大台は球団生え抜きの選手としての最速記録で、球団の期待の大きさの現れでもある。今季からかつて金子がつけていた背番号「19」を背負う若きエースの開幕戦での投球内容は、チームの24年ぶりの制覇を占う試金石となる。