オリックス 独走の3連覇

横綱相撲

 今季、3連覇で15度目(阪急時代の10度を含む)のリーグ制覇を成し遂げたオリックス。2021年は全日程終了後、22年は最終戦で優勝が決まったが、今季は7月9日からは首位を譲らず、8月26日にマジック24が初点灯。マジックを消すことなく、パ・リーグのチームとしては21世紀初の3連覇を達成した。21年からの連覇は薄氷を踏むようなVだったが、今季は5月の4連敗が最長で、3連敗も3度だけという“横綱相撲”だった。その原動力に迫った。(記録は9月20日現在)

吉田正尚の穴

 今季のオリックスの最大の懸案事項は昨オフにポスティングでMLBレッドソックスに移籍した吉田正尚の穴だった。5年連続で規定打席到達、打率3割、出塁率4割、長打率5割をマークしたスラッガーはかけがえのない戦力だった。フロントはその穴を埋めるべく、FA資格を取得していた西武・森友哉と日本ハム・近藤健介の獲得に動いた。近藤はソフトバンクにさらわれたが、地元・大阪出身の森の獲得に成功。ただ森はシーズン毎の成績に波があり、中嶋聡監督は森だけでは吉田の穴を埋めることは難しいと踏んでいただろう。21年のキング・杉本裕太郎も昨季は本塁打数が半減。今季も成績は未知数だった。

中軸の人材

 そういうチーム事情を踏まえて、中軸を任せられる人材として期待を寄せたのは昨季11本塁打を放った大卒5年目の頓宮裕真だ。捕手登録だが入団時は内野手だった頓宮を主に一塁手で起用。昨季まで規定打席に到達したことはなかったが、6月までは3割4分前後の打率を残し、リーグトップの打率は3割7厘。打点は昨季34→今季49(チーム3位)、本塁打は昨季11→今季16(チームトップタイ)と伸ばした。また外国人選手にもその役割を託した。フランク・シュウィンデルは不発に終わったが、マーウィン・ゴンザレスとレアンドロ・セデーニョのベネズエラコンビがまずまずの結果を残した。ゴンザレスは10本塁打で29打点、セデーニョは4試合連発を含む8本塁打で32打点。昨季、3人の外国人野手は計120試合の出場で1本塁打27打点だったが、今季は計119試合出場のベネズエラコンビで18本塁打61打点と助っ人としての仕事をした。

チーム力のレベルアップ

 近藤を獲得できなかったことで外野にひとつポジションが空いたが、そこに納まったのは茶野篤政だった。昨年の育成ドラフト4位で四国IL徳島から入団し、開幕前に支配下選手登録された新人は、開幕戦に8番右翼でスタメン出場するとプロ初打席初安打。一時は打撃ベストテン入りするなどシーズン前半は攻撃の欠かせないピースとなった。実力があれば、実績に囚われずに起用するという指揮官の起用方針は、選手間の競争を促し、チーム力のレベルアップをもたらした。

強力な投手陣

 球団では1954年の梶本隆夫以来となるプロ初登板で開幕投手を務めた山下舜平大の飛躍が大きかった。山本由伸と宮城大弥が3月のWBCに出場したため消去法的な選択であったが、実績がまったくない投手を抜擢した。リスクを伴う決断であったが、中嶋監督は今季ある程度の数字を残す力があると見越していたのだろう。高卒3年目の新鋭は2試合目の先発登板でプロ初勝利を挙げると、指揮官の期待に応えるように好投を続け、防御率1.61という安定感で9勝(3敗)をマーク。8月には腰の故障で戦線離脱したが、初出場の球宴で敢闘選手賞を受賞するなど先発の柱として躍動した。また山岡泰輔が先発で結果を残せないとみると、7月下旬に救援に配置転換。代わりに先発ローテーション入りした育成出身の東晃平が無傷の6勝を挙げ、その穴を埋めた。山岡もプロ初セーブを挙げるなど、8ホールドポイントを記録し、強力な救援陣の一角を占めた。

進化する投手陣

 21年の防御率は3.31、翌年は2.84。過去2年はリーグ2位だったが、投手陣は年々進化し、今季はリーグトップの2.63。チームの総得点はトップのソフトバンクに22点及ばずリーグ2位(466)であったが、総失点はソフトバンクより約100点少ないリーグトップの374点。得失点差92点は、2位のソフトバンク(15点)、3位のロッテ(-13点)を大きく引き離し、チーム力の差は歴然としていた。

常勝軍団の強み

 ペナントレースの最終盤の9月12日の日本ハム戦。オリックスは四回に1点先制し、なお無死一・二塁の好機で頓宮が犠打。得点圏に走者を進めた後、杉本の内野安打と安達のセーフティ・スクイズで2点を追加。試合の主導権を握り、8-1で勝利した。同月17日の楽天戦では4-4で迎えた八回。無死一塁の場面で四回に同点ソロを放っていたゴンザレスが頓宮に呼応するかのように犠打。この回に2点を勝ち越し、九回は山﨑颯一郎が締めた。選手は連覇を経験し、チームが勝つために何をすれば良いかを知っている。黄金時代の西武を彷彿とさせる常勝軍団の強みである。

“選手層の厚さ”が原動力

森は7月2日から1か月余り左太ももの故障で戦列を離れ、8月17日のソフトバンク戦で復帰後初めて捕手としてフル出場し、同点打と勝ち越しのソロを放った。お立ち台に上がった森は「自分がおらんほうが強いんかなと思いながらテレビで観ていた」と離脱中の心境を語ったが、それが冗談と思えないほど、今季のオリックスはどの選手が試合に出ても強さを発揮した。今季全試合に出場した選手やホームランと打点でリーグのベスト5に入った選手はいなかったが、チーム本塁打はリーグトップ、チーム得点は同2位。支配下登録の野手37人中31人が1軍の試合に出場した。MLBで首位打者争いをする選手の穴を感じさせない “選手層の厚さ”。それが今季のオリックスの独走の原動力だった。

“進撃の阪神” 6度目のセ制覇

大型連勝で快進撃

 岡田第一次政権2年目の2005年以来、6度目のセ・リーグ制覇を果たした阪神(1リーグ時代を含めると10度目の優勝)。今季は開幕4連勝でスタート。5月は9連勝を含む球団月間最多タイ記録の19勝を挙げた。交流戦は7勝10敗1分け。6月はDeNA戦での今季唯一の同一カード3連戦全敗を含む、今季ワーストの5連敗があり、8勝14敗1分けと負け越した。しかし7月は11勝8敗2分けと盛り返し、8月には07年以来となる10連勝と勢いが加速し、16日にマジック29が初点灯。一旦消滅したが、9月1日にマジック18が再点灯。それから41年ぶりとなる怒涛の11連勝で、7月28日から首位を譲らず、同14日に球団史上最速でゴールへ駆け抜けた。(記録は14日現在)

精神面の弱さを克服

 1999年からの3年間、阪神を率いた野村克也前監督はチームの精神面での弱さをぼやいたが、今季の阪神はかつてと様相を異にし、勝負どころでの強さが際立った。7月27日に破竹の10連勝で広島が首位に立ち、翌日からの首位攻防3連戦を2勝1分けとして首位を奪還。8月29日のDeNA戦、2-0の九回にクローザー岩崎優が佐野恵太に2ラン、続く牧秀悟のソロで勝ち越しを許し、マジックは消滅した。翌日も逆転負けを喫し、同31日時点で2位広島とのゲーム差は5.5。これまで何度も苦杯をなめた勝負の9月を前に不穏な雰囲気が漂ったが、同8日からの2位広島との3連戦で3タテするなど9月は圧倒的な強さを見せ、虎党の不安は杞憂に終わった。また8月13日に正捕手の梅野隆太郎が死球で骨折し、戦線離脱。正捕手不在という最大のピンチを坂本誠志郎が救った。

最大の嬉しい誤算

 今季のキャンプ前日の取材で、〈良い意味で監督の構想を覆す選手が出てほしいか〉と聞かれた岡田彰布監督は「そらそうよ。毎年キャンプで思うのはそういうことや」と答えたそうだ。どのチームの指揮官にも共通する思いだろうが、今季の躍進の象徴といえるのが大竹耕太郎と村上頌樹の2人であることに異論はないだろう。現役ドラフトでソフトバンクから入団した大竹は4月8日に今季初登板初勝利。そのゲームを含めて大竹が先発した試合で8戦連続でチームは勝利。開幕ダッシュに大きく貢献した。7月5日の広島戦でプロ初完封、9月9日には同じ相手に6年目で初の二桁勝利を挙げた。ソフトバンク時代の自己最多が5勝で、昨季まで2年連続で勝ちがなかった投手が大きく変身した。

 村上は4月1日に中継ぎで今季初登板。同12日のローテーションの谷間で巨人戦に先発。勝ちは付かなかったが7回までパーフェクトに抑え、今季の活躍を暗示するかのような快投を見せた。同22日の中日戦でプロ初勝利を挙げると、順調に勝利を積み重ね、9月8日の広島戦で二桁に届いた。ウエスタンリーグで21年に勝利、22年に奪三振、両年で勝率と防御率でトップだったとはいえ、プロ未勝利で昨季一軍での登板がなかった3年目の投手が大きな飛躍を遂げた。今季の“村神様”は阪神にいた。両者で計20勝7敗。チームの貯金の約36%をつくった。これが今季の岡田監督の最大の“嬉しい誤算”だったのではないだろうか。先発の柱と期待した青柳晃洋と西勇輝が精彩を欠くなかで、大竹と村上で勝ちを計算できたのは優勝の最大の要因といえるだろう。

救援陣は臨機応変

 前回優勝時のJFKのような絶対的な救援陣は整備できなかった。そのうえ昨季最優秀中継ぎのタイトルを獲得し、クローザーとして期待した湯浅京己が交流戦で三度炎上し、抑えから外さざるを得なかった。試合の締め括りという最も大事なポジションで岡田監督の構想が崩れたが、代役の岩崎がチームで最多の56試合に登板し、自己最多の32セーブを挙げ、責務を十二分に果たした。そのほか48試合に登板した岩貞祐太は23ホールド、同47試合の加治屋蓮は16ホールド、同38試合の石井大智は17ホールド、同33試合の島本浩也は13ホールドをマーク。前回優勝時はホールドを挙げた投手は8人だったのに対し、今季は13人。確固たる勝利の方程式を作り上げることはできなかったが、対戦相手との相性や投手の調子、登板間隔を考慮し、臨機応変に救援陣を起用し、チームの勝利へとつなげていった。

個の弱さをチームでカバー

 攻撃陣では打撃3部門でベスト5に入った選手は、昨季の三冠王、ヤクルト・村上宗隆と並ぶ78打点(リーグ3位タイ)を挙げた佐藤輝明のみ。チームの打撃成績をみても、打率はリーグ3位(2割4分7厘)。本塁打はリーグトップの巨人(152本)に対し、半分以下の71本(同5位)。長打率もトップの巨人(4割8厘)に対し、同5位(3割5分1厘)。三振は同ワーストの1050個。一方、四球は全試合に4番で先発出場した大山悠輔がリーグトップの88個を選び、12球団最多の452個。本塁打トップの巨人(314個)、優勝争いをしたDeNA(321個)と広島(324個)に比べると突出し、両リーグトップの504得点の原動力となった。また三塁打はリーグ2位中日(18本)のほぼ倍の33本。近本光司が11個、佐藤が6個、中野拓夢が5個を記録するなど昨季の21本より大幅に増えた。ひとつでも先の塁を陥れようとする積極性の為せる業だ。併殺打の数は、リーグ最少の75個。足を絡めるなどチャンスを潰さない攻撃をチームとして意識した跡がみられる(盗塁はリーグ2位の69個、盗塁成功率も同2位の7割4分2厘)。攻撃陣は救援陣同様、「個」の弱さを「チーム」でカバーした。

1、2番コンビ

 DeNAの三浦大輔監督の「特に1、2番によくやられた」との弁が新聞紙上に載った。今季は1番近本、2番中野でほぼ固定。近本が選んだ四球は昨季41→今季65に増え、中野は昨季18→今季56と約3倍になった。両者の得点の合計は156。これはチームの総得点の31%に相当する。打点では近本は昨季34→今季53、中野は昨季25→今季39。2人とも自己最多を更新し、チームの総打点(485)の19%を稼いだ。近本は7月に四球による骨折で19日間戦列を離れたが、1、2番コンビがチャンスメーカーとしてもポイントゲッターとしても機能し、阪神打線を牽引した。対戦相手からすると手強い上位打線だった。

コンバートは奏功

 昨季まで5年連続リーグワーストのチーム失策数は、今季はリーグ5位(73個)。守備率9割8分5厘は広島と並びリーグワーストで、ここ数年続いていた課題を克服できなかった。ただ中野を遊撃手からコンバートし、一塁大山、二塁中野、三塁佐藤輝、遊撃木浪とほぼ固定したことにより、併殺はリーグトップ(116個)を記録。昨季のリーグ3位から向上した。中野は二塁手で全イニングに出場し、失策も昨季18→今季8と大幅に改善し、コンバートは奏功した。

統率力で18年ぶりのセ王者

 今季はライバル巨人を17勝5敗1分けとねじ伏せ、前回優勝時の再現で甲子園での巨人戦で胴上げをした。昨季のリーグ覇者ヤクルトにも15勝6敗1分けと大きく勝ち越し、セ・リーグ全球団の勝ち越しは62年の2リーグ制下での初優勝時以来となる。「最後2005年に優勝して、まさかね、それから優勝できないなんて思ってなかった」。昨年の監督就任時の記者会見でそう述べたが、12球団で最年長の指揮官は若虎を鍛え上げ、その力を結集。卓越した統率力で18年ぶりにチームをセ・リーグ王者へと導いた。