現役ドラフト

選手会ビジョン2019

 昨季、阪神・大竹耕太郎、中日・細川成也といった「現役ドラフト」の1期生が大ブレイクしたことで、この制度が一躍脚光を浴びている。日本プロ野球選手会は日本球界を発展させるために「選手会ビジョン2019」という提言を2019年に発表した。このビジョンは、①野球普及・育成環境の整備②魅力あるプロ野球の構築③引退後の充実―をテーマに掲げ、出場機会に恵まれない選手の移籍を活発化させる現役ドラフトの創設も含まれていた(その時点でNPBとの事務折衝で導入を要求していたようだ)。20年の導入を目指すも、新型コロナ禍で実施が先送りになり、一昨年にようやく実現をみた。

飛躍した大竹と細川

 大竹は済々黌高在学時、甲子園に出場。早稲田大学に進学し、 18年に育成ドラフト4位でソフトバンクに入団した。ルーキーイヤーは3勝(2敗)。翌年は106イニングを投げ、5勝(4敗)をマークしたが、21年から2年連続で2試合ずつの登板で勝ち星はなかった。古巣での5年間の通算成績は10勝9敗だったが、新天地での1年目に12勝2敗と躍動した。チームの貯金「32」の約3割を稼ぎ、18年ぶりのリーグ制覇に大きく貢献した。
 細川は17年にドラフト5位で明秀学園日立高からDeNAに入団。本拠地・横浜球場での中日戦で、プロ初打席で本塁打を放つと、翌日にも2試合連続弾。1年目に放った2安打がいずれも本塁打。長打率1.600と大器の片鱗を見せるも、6年間でレギュラーには定着できず、通算成績は123試合の出場で41安打、19打点、6本塁打。それが新天地では140試合の出場で131安打、78打点、24本塁打と大きな飛躍を遂げた。

現役ドラフト組に熱い視線

 技巧派の大竹は、速球派揃いのソフトバンクの投手陣の中で投手としてのアイデンティティを確立できなかったことも考えられる。器用さに欠く細川は、中日で2千安打を達成した和田一浩打撃コーチの指導がハマったとも言えるだろう。動物は環境に左右される。環境を変えることで「人」は変われるという好例である。昨年12月に2回目となる現役ドラフトが実施され、阪神・馬場皐輔(28)、中日・鈴木博志(26)、ロッテ・佐々木千隼(29)といったドラフト1位組も3人指名された。過去の栄光を忘れ、プロ野球選手として新たなスタートを切ることで大輪の花を咲かすことができるか――。そして実質2年目となる大竹や細川が昨季の活躍がフロックではなかったという成績を今季も残すことができるか――。現役ドラフト組に熱い視線を注ぎたい。

辰年の竜

88年はリーグ制覇

 十二支の辰のシンボルである空想上の生き物「竜」。辰年の今季、中日はどのような戦いを見せるのだろうか。これまでの辰年の戦績は、1940年は5位、52年は3位、64年は最下位、76年は4位と振るわなかったが、88年に闘将・星野仙一監督の下、リーグ制覇をしてから2000年は同じ指揮官の下、12年は高木守道監督の下で2位と、好成績が続いている。

強固なディフェンス

 21世紀に入ってからの中日は落合博満監督が指揮を執った04~11年はすべてAクラス。リーグ優勝4回、日本一1回と黄金時代を築いた。しかし、同監督の退陣以降は20年(3位)を除き、すべてBクラス、立浪和義監督が就任した22年から2年連続最下位と低迷している。強化ポイントははっきりしている。22年のチーム防御率は3.28、翌年は3.08でともにリーグ2位。22年のチーム失点は495(リーグ2位)、翌年は498(同3位)。ディフェンスは強固だ。

弱いオフェンス

 一方、22年はチーム本塁打と四球がリーグ最少。翌年はその2部門に加え、打率、長打率、出塁率もリーグワースト。22年のチーム得点は414点、翌年は390点で、ともにリーグワースト。22年のチーム本塁打62本はリーグ優勝したヤクルトの約3分の1、日本人選手のシーズン最多本塁打記録を更新する56本を放った村上宗隆のほぼ一人分だった。22年の414得点はリーグ5位の阪神に75点差、23年の390点はリーグ5位の広島に103点差と水をあけられている。得点力の弱さが順位に直結している。

攻撃力の強化を図るも

 昨季も攻撃力の強化を図ったが、主軸想定のアリスティデス・アキーノは20試合の出場で打率1割5分4厘、1本塁打、6打点。18年に打率3割2分1厘、77打点、15本塁打の成績を残し、3年ぶりに復帰したソイロ・アルモンテも28試合で1割8分9厘、1本塁打、2打点と期待外れに終わり、退団した。

明るい材料も

 明るい材料もあった。高卒4年目の岡林勇希が初のフルイニング出場。49年に西沢道夫がつくった25戦連続を抜く、29試合連続安打の球団記録を達成し、球団史に名を刻んだ。現役ドラフトでDeNAから加入した細川成也が140試合の出場で、打率2割5分3厘、24本塁打、78打点をマーク。安打と本塁打、打点でDeNA在籍の6年間の通算成績を上回る大ブレーク。14年目のベテラン大島洋平は、史上55人目、中日では7人目となる2000安打を達成した。

新戦力が起こす化学変化

 今季の戦いを見据え、積極的な補強をした。MLBで40本塁打のアレックス・ディカーソンと巨人を退団した中田翔を獲得し、大砲の役割を託す。加えて巨人から中島裕之、ソフトバンクから上林誠知、阪神から山本泰寛と、戦力外になった3選手を獲得。経験豊富な新戦力がチームにどのような化学反応を起こすのか注目だ。ダヤン・ビシエドは国内FA権を取得したことで日本人選手扱いとなり、外国人選手を1人多く使える。そのメリットをどう活かすのか――。中田とビシエドの併用を含めて、立浪監督の腕の見せどころである。

阪神の攻撃スタイルを参考

 広いバンテリンドームを本拠地とする中日は一発が少なく、得点力の低さの一因になっている。それならば同じ境遇の阪神の攻撃スタイルが参考になるのではないか。阪神のチーム四球数をみると、22年は358(リーグ3位)→23年は494(同トップ)。それにより出塁率も22年は3割1厘(同5位タイ)→23年は3割2分2厘(同トップ)と向上し、リーグ制覇の一因になった。岡田彰布監督は査定時に四球を安打と同等のポイントにするようにフロントに交渉したと伝わる。攻撃力を強化するための現場とフロントが一体になった取り組みが必要ではないか。3年契約の最終年となる立浪監督が、 “強竜復活”の狼煙を上げることができるか――。まずはCS進出を目指したい。