広島、機動力の復活

前評判を覆す

 2016年からリーグ3連覇したあと、4年連続Bクラスが続いた広島。チームの再建を託され、最後にリーグ制覇したシーズンに引退した新井貴浩監督が今季から指揮を執る。前評判は高くなかったが、前半戦を首位阪神と1ゲーム差で折り返し、7月27日には4年ぶりの10連勝で4月中旬以来の首位に浮上した。兄貴分的な存在の新井監督のもと、選手が伸び伸びと本来の力を発揮し、チームとしても成長している。

機動力野球のイメージ

 広島といえば、機動力野球のイメージがある。初めてリーグ制覇したときの古葉竹識監督が現役時代に通算263盗塁を記録した足のスペシャリストだったことに起因しているのかもしれない。最多盗塁のタイトルを3度獲得した選手を挙げると、金山次郎(2度は松竹在籍時)、高橋慶彦、野村謙二郎、緒方孝市がいる。チームの成績も機動力と密接な相関があり、リーグ制覇した9度のうち1975年、79年、84年、2016~18年はチーム盗塁数1位、80年、86年、91年は同2位である。最後のリーグ制覇の翌年(19年)からの順位は4位、5位、4位、5位。チーム盗塁数もリーグ3位、同4位、同3位、同6位と伝統の機動力も低下している。とりわけ盗塁数がリーグワーストに終わった昨季はチームの盗塁数26に対し盗塁刺は29。盗塁成功率が5割を切るという惨憺たる状態だった。

伝統を活かした野球

 新井監督は過去4年間のチームの状態を踏まえ、今季のテーマに“機動力の復活”を掲げる。盗塁は羽月隆太郎の12個が最多で、チームの盗塁数はリーグトップの64(記録は8月20日現在)。盗塁成功率はリーグ4位と振るわないが、盗塁への意識は確実に浸透しているといっていい。111試合消化時点で総得点391に対し総失点は392。チーム打率2割4分5厘(リーグ4位)、同本塁打74本(同4位)、同防御率3.17(同3位)とスタッツは傑出していないが、優勝戦線にとどまっている一因として機動力があるように映る。首位阪神とは7ゲーム差。機動力というチームの伝統を活かし、広島らしい野球を貫けるかが逆転Vへの鍵を握るのではないだろうか。

オリックス・山本由伸、リーグ3連覇へ

白星を積み重ねる

 前半戦で両リーグトップの9勝(3敗)を挙げたオリックスのエース山本由伸。2021年から2年連続開幕投手を務めたが、今季はWBCに出場したことで、開幕6試合目での初登板となった。前半戦は13試合に先発登板。6月5日のソフトバンク戦(6回4自責点)以外はクオリティ・スタートを達成し、順調に白星を積み重ねた。

序盤は”らしさ”に欠ける

 しかしシーズン序盤からエンジン全開とはいかなかった。登板2試合目のロッテ戦から連敗し、3試合目の西武戦では二桁被安打を喫した。シーズン初の二桁奪三振は9試合目で、2021年の2試合目、22年の5試合目と比べると遅く、山本らしさに欠けていた。昨季までの左足を跳ね上げるフォームから今季は左足を高く上げずに踏み出す新フォームに取り組み、その影響があったのかもしれない。

交流戦で3勝

 しかし2年連続で沢村賞を受賞する投手ともなると、対応力も異次元だ。徐々に調子を上げていき、交流戦では計24回を1自責点(防御率0.38)に抑え、3勝をマーク。新フォームもしっかりと自分のものとし、本来の力を発揮しだした。2年連続で投手四冠を達成してもそれに満足せず、さらなら高みを目指す。

新フォームの成果

 昨季までと比べて特筆すべきは与四球の少なさと奪三振の多さだ。交流戦までは6試合で無四球が1試合だったが、交流戦初登板の広島戦からは7試合で無四球が5試合。与四球率(1試合あたりの与四球数)は、21年が1.86、22年が1.96だったのに対し、今季の前半戦は1.16と制球力にさらに磨きがかかっている。三振奪取率(1試合あたりの奪三振数)も21年が9.57、22年は9.56に対して、前半戦は9.93と二ケタに迫る勢いだ。新フォームの成果は確実に数字に現れている。

リーグ3連覇へ

 前半戦は完投が1試合で完封はなかった。前半戦の最後の先発(7月15日のソフトバンク戦)で勝利投手となり、「凄く状態が良くなってきているし、もっともっといいボールが投げられそうな感覚もある」とコメントした。宮城大弥や山下舜平大を擁する強力先発投手陣を牽引するエースの言葉が現実になれば、リーグ3連覇の確率はぐんと高くなる。