日本シリーズ2023展望

59年ぶりの関西ダービー

 59年ぶりの関西球団同士での対戦となった日本シリーズ。オリックスは3年連続15度目(阪急時代の10度を含む)の出場。阪神はレギュラーシーズン2位でCSを勝ち上がった2014年以来9年ぶり7度目の出場となる。1964年は南海が阪神を4勝3敗で下して、パ・リーグの球団に軍配が上がったが、今年の関西ダービーはどのような結末になるのだろうか。

異なる攻撃スタイル

 両チームともに先発陣も救援陣も強力で防御率はリーグトップという共通点があるのに対し、攻撃のスタイルは大きく異なっている。チームのスタッツを見ると、オリックスの本塁打はリーグトップの109本、阪神はリーグ5位の84本。四球はオリックスのリーグワーストの371に対し、阪神はリーグトップの494。盗塁を比較するとオリックスはリーグワーストの52。阪神は最多盗塁のタイトルを獲得した近本光司の28、リーグ2位の中野拓夢の20を含む、リーグトップの79。犠打はオリックスのリーグワーストの83に対し、阪神はリーグ2位タイの106。オリックスは強攻を主とするが、阪神は本塁打の少なさを四球や犠打、盗塁によって補っている。それが阪神の総得点555(リーグトップ)がオリックスの総得点508(リーグ3位)を上回る要因だ。オリックスの投手陣はストライクゾーンで勝負し、阪神のチャンスの芽を摘み取ることができるか。一方、阪神は制球力に優れたオリックスの投手陣からレギュラーシーズンのように四球を選び、チャンスを作り出すことができるか――。そこが勝負の分水嶺となるだろう。

先発投手陣

 オリックスの先発投手は山本由伸、宮城大弥、山﨑福也、東晃平、田嶋大樹が予想される。山下舜平大は出場資格者から外れた。阪神は第1戦から第3戦はCSファイナルステージ通り、村上頌樹、伊藤将司、大竹耕太郎となるだろうが、第4戦と第5戦は流動的だ。レギュラーシーズンで8勝を挙げた西勇輝、青柳晃洋、才木浩人のうち調子と相手との相性を踏まえての起用となりそうだ。先発投手の力量はオリックスのほうが勝っている。中嶋聡監督は先行逃げ切りの展開に持ち込みたいだろう。

1点の重み

 短期決戦では1点の重みが増す。今季のオリックスは1点差ゲームで28勝13敗(勝率6割8分3厘)。阪神は28勝16敗(勝率6割3分6厘)。オリックスの失策はリーグ2位の60。阪神はリーグワーストの85。守備力が勝負を決することもありうる。

最大の鍵

 今季の阪神はレギュラーシーズンを神がかり的な進撃を見せ、その余勢を駆ってCSファイナルも全勝した。岡田彰布監督はその勢いを日本シリーズに持ち込めるか。一方の中嶋監督はその勢いを止める采配を振るうことができるか。それが今シリーズの“最大の鍵”となるだろう。

余談(一)

 3年連続で投手四冠を達成した山本由伸だが日本シリーズは3度先発し未勝利だ。2021年、22年の第1戦では相手の先発投手より先に降板し、シリーズの流れをつくれなかった。しかも昨季は左脇腹の違和感で戦線離脱と、頂上決戦では本来の能力を発揮できていない。オフにポスティングでの米大リーグへの移籍が取り沙汰されていて、今シリーズが日本球界での見納めになるかもしれない。山本も今シリーズにかける思いは並々ならぬものがあるだろう。昨季の同シリーズでは吉田正尚が特大のサヨナラ弾を日本球界への置き土産としてくれたが、山本の置き土産に期待は高まる。

余談(二)

 岡田監督がオーダー固定を志向するのに対し、中嶋監督は日替わりオーダーを組む。それが顕著に現れたのがCSファイナルステージだった。オリックスは全4戦で打順と守備が固定されたのは4番DH・レアンドロ・セデーニョと5番中堅・杉本裕太郎のみだったが、阪神は全3戦で1~8番まで打順と守備位置を固定。交代は投手の代打かその代走のみだった。両監督ともに日替わりオーダーでマジックを見せた仰木彬氏の指揮下でプレーした経験はあるが、中嶋監督は師匠譲りなのに対し、岡田監督は昭和の野球スタイルだ。その思想の違いも見どころだ。

オリックス 独走の3連覇

横綱相撲

 今季、3連覇で15度目(阪急時代の10度を含む)のリーグ制覇を成し遂げたオリックス。2021年は全日程終了後、22年は最終戦で優勝が決まったが、今季は7月9日からは首位を譲らず、8月26日にマジック24が初点灯。マジックを消すことなく、パ・リーグのチームとしては21世紀初の3連覇を達成した。21年からの連覇は薄氷を踏むようなVだったが、今季は5月の4連敗が最長で、3連敗も3度だけという“横綱相撲”だった。その原動力に迫った。(記録は9月20日現在)

吉田正尚の穴

 今季のオリックスの最大の懸案事項は昨オフにポスティングでMLBレッドソックスに移籍した吉田正尚の穴だった。5年連続で規定打席到達、打率3割、出塁率4割、長打率5割をマークしたスラッガーはかけがえのない戦力だった。フロントはその穴を埋めるべく、FA資格を取得していた西武・森友哉と日本ハム・近藤健介の獲得に動いた。近藤はソフトバンクにさらわれたが、地元・大阪出身の森の獲得に成功。ただ森はシーズン毎の成績に波があり、中嶋聡監督は森だけでは吉田の穴を埋めることは難しいと踏んでいただろう。21年のキング・杉本裕太郎も昨季は本塁打数が半減。今季も成績は未知数だった。

中軸の人材

 そういうチーム事情を踏まえて、中軸を任せられる人材として期待を寄せたのは昨季11本塁打を放った大卒5年目の頓宮裕真だ。捕手登録だが入団時は内野手だった頓宮を主に一塁手で起用。昨季まで規定打席に到達したことはなかったが、6月までは3割4分前後の打率を残し、リーグトップの打率は3割7厘。打点は昨季34→今季49(チーム3位)、本塁打は昨季11→今季16(チームトップタイ)と伸ばした。また外国人選手にもその役割を託した。フランク・シュウィンデルは不発に終わったが、マーウィン・ゴンザレスとレアンドロ・セデーニョのベネズエラコンビがまずまずの結果を残した。ゴンザレスは10本塁打で29打点、セデーニョは4試合連発を含む8本塁打で32打点。昨季、3人の外国人野手は計120試合の出場で1本塁打27打点だったが、今季は計119試合出場のベネズエラコンビで18本塁打61打点と助っ人としての仕事をした。

チーム力のレベルアップ

 近藤を獲得できなかったことで外野にひとつポジションが空いたが、そこに納まったのは茶野篤政だった。昨年の育成ドラフト4位で四国IL徳島から入団し、開幕前に支配下選手登録された新人は、開幕戦に8番右翼でスタメン出場するとプロ初打席初安打。一時は打撃ベストテン入りするなどシーズン前半は攻撃の欠かせないピースとなった。実力があれば、実績に囚われずに起用するという指揮官の起用方針は、選手間の競争を促し、チーム力のレベルアップをもたらした。

強力な投手陣

 球団では1954年の梶本隆夫以来となるプロ初登板で開幕投手を務めた山下舜平大の飛躍が大きかった。山本由伸と宮城大弥が3月のWBCに出場したため消去法的な選択であったが、実績がまったくない投手を抜擢した。リスクを伴う決断であったが、中嶋監督は今季ある程度の数字を残す力があると見越していたのだろう。高卒3年目の新鋭は2試合目の先発登板でプロ初勝利を挙げると、指揮官の期待に応えるように好投を続け、防御率1.61という安定感で9勝(3敗)をマーク。8月には腰の故障で戦線離脱したが、初出場の球宴で敢闘選手賞を受賞するなど先発の柱として躍動した。また山岡泰輔が先発で結果を残せないとみると、7月下旬に救援に配置転換。代わりに先発ローテーション入りした育成出身の東晃平が無傷の6勝を挙げ、その穴を埋めた。山岡もプロ初セーブを挙げるなど、8ホールドポイントを記録し、強力な救援陣の一角を占めた。

進化する投手陣

 21年の防御率は3.31、翌年は2.84。過去2年はリーグ2位だったが、投手陣は年々進化し、今季はリーグトップの2.63。チームの総得点はトップのソフトバンクに22点及ばずリーグ2位(466)であったが、総失点はソフトバンクより約100点少ないリーグトップの374点。得失点差92点は、2位のソフトバンク(15点)、3位のロッテ(-13点)を大きく引き離し、チーム力の差は歴然としていた。

常勝軍団の強み

 ペナントレースの最終盤の9月12日の日本ハム戦。オリックスは四回に1点先制し、なお無死一・二塁の好機で頓宮が犠打。得点圏に走者を進めた後、杉本の内野安打と安達のセーフティ・スクイズで2点を追加。試合の主導権を握り、8-1で勝利した。同月17日の楽天戦では4-4で迎えた八回。無死一塁の場面で四回に同点ソロを放っていたゴンザレスが頓宮に呼応するかのように犠打。この回に2点を勝ち越し、九回は山﨑颯一郎が締めた。選手は連覇を経験し、チームが勝つために何をすれば良いかを知っている。黄金時代の西武を彷彿とさせる常勝軍団の強みである。

“選手層の厚さ”が原動力

森は7月2日から1か月余り左太ももの故障で戦列を離れ、8月17日のソフトバンク戦で復帰後初めて捕手としてフル出場し、同点打と勝ち越しのソロを放った。お立ち台に上がった森は「自分がおらんほうが強いんかなと思いながらテレビで観ていた」と離脱中の心境を語ったが、それが冗談と思えないほど、今季のオリックスはどの選手が試合に出ても強さを発揮した。今季全試合に出場した選手やホームランと打点でリーグのベスト5に入った選手はいなかったが、チーム本塁打はリーグトップ、チーム得点は同2位。支配下登録の野手37人中31人が1軍の試合に出場した。MLBで首位打者争いをする選手の穴を感じさせない “選手層の厚さ”。それが今季のオリックスの独走の原動力だった。