2022年日本シリーズ展望

苦難を乗り越え連覇

昨季に続き、リーグ覇者となったヤクルトとオリックス。共に昨季、レギュラーシーズンは4連敗が最多だったが、今季は7連敗を喫した。また両チームとも、指揮官が新型コロナに感染し、戦線を離れるという緊急事態に直面し、道のりは平たんではなかった。ヤクルトは7月2日に史上最速でマジックが点灯するも、新型コロナで主力が離脱した影響もあり、一度はマジックが消滅。137試合目に2年連続の制覇を決めた。一方のオリックスは最終戦に逆転勝ち。2位ソフトバンクが敗れ同率で並んだが、当該球団間の対戦勝率で上回り、連覇を成し遂げた。

村上宗隆VS.オリックス投手陣

再び日本シリーズで相まみえることになった。今年の対戦の構図は、”村上宗隆VS.オリックス投手陣”と言えるだろう。22歳で史上最年少の三冠王に輝いたスラッガーは今季、史上最年少での150本塁打の達成、プロ野球記録となる5打席連続本塁打、日本選手シーズン最多の56本塁打など、数々の本塁打の記録を塗り替えた。今季最終戦の最終打席で、王貞治のシーズン本塁打記録を抜くなど勝負強さも超人的である。

村上のバットの存在感

若き強打者はレギュラーシーズンでは141試合に出場し、43試合でアーチをかけ、59試合で打点を稼いだ。本塁打を1本放った試合では、チームは20勝10敗1分け(勝率.667)。2本塁打では9勝2敗(同.818)、3本塁打では 1勝(同1.000)。村上が1打点を挙げた試合では、チームは12勝10敗(同.545)。2打点では11勝4敗1分け(勝率.733)、3~6打点では19勝2敗(同.905)。数字が物語るように、村上のバットの存在感が増すほど、チームが勝つ確率も高くなっている。村上の後ろに控える外国選手も手強いが、“不動の4番”がその威力をさらに引き立てている。

安定感抜群の山本

迎え撃つオリックス投手陣の大黒柱は、山本由伸。今季のオリックスは開幕戦での山本の完封勝利で幸先の良いスタートを切った。エースは12年ぶりに開幕戦の勝利をチームにもたらし、4月には昨年から続く自身の連勝を18と伸ばし球団記録を更新。6月には無安打無得点を達成。今季は26試合に先発し15勝5敗。クオリティ・スタートは22回と安定感は抜群だった。最多勝利、勝率7割5分、防御率1.68、奪三振205で、昨季から2年連続、史上初となる2度目の投手四冠に輝いた。沢村栄治や金田正一、稲尾和久、杉浦忠といったレジェンドを超える偉業を成し遂げた。

日本一の行方を占う対戦

昨年の日本シリーズでは2度先発。第1戦は6回1自責点、第6戦は141球の渾身の投球で9回1自責点に抑えた。村上との対戦は7打数1安打(単打1本)、打点ゼロ、4三振と封じ込めたが、未勝利に終わった。今季の交流戦では対戦がなかったが、初戦での日本シリーズ初勝利を目指す”球界のエース”と”最年少三冠王”との対戦結果は、日本一の行方を占ううえでも重要である。

大きな流れをつくる初戦

ヤクルトの初戦の先発は、今季の開幕投手で、CSファイナルステージでも先陣を切った小川泰弘だろうか。今季は8勝8敗(防御率2.82)で、ヤクルト投手陣で唯一規定投球回数に達した。昨年の初戦では奥川恭伸が7回1自責点と、山本に勝るとも劣らない投球でヤクルトの投手陣を勇気づけ、第2戦の高橋奎二の完封勝利の伏線となった。ヤクルトの初戦の先発がどのような投球をするかもシリーズの大きな流れをつくる。オリックスは、山本に勝ちが付くように初戦を飾り、波に乗りたい。ヤクルトは球団として初めて、セ・リーグのチームとして1979、80年の広島以来となる2年連続の日本一を目指し、オリックスは昨年のリベンジを果たし、球団として96年以来となる“球界の盟主”の座を狙う。昨年は1点差ゲームが5試合、2点差ゲームが1試合と激しい鍔迫り合いが演じられた。今年はそれ以上の白熱した戦いになる気配が漂う。

【余談】

攻撃陣のラッキーボーイとしての働きが期待される選手は、ヤクルトは青木宣親と山田哲人、オリックスは中川圭太だ。青木は今季81試合の出場にとどまり、打率2割4分8厘、22打点、5本塁打。CSファイナルステージでは全試合スタメンから外れ、代打出場となった。山田も今季は65打点、23本塁打をマークしたが、打率2割4分3厘と物足りなさが残った。CSファイナルステージ第3戦では、宮本丈にスタメンを譲った。ただWBCや五輪など大舞台での経験は豊富である。青木は昨年の日本シリーズ第2戦では0-0から均衡を破る決勝打を放ち、山田は第5戦で試合を振り出しに戻す同点3ランを放つなど、チームが窮地に陥ったときに頼れる存在である。昨年の日本一は2015年の日本シリーズに出場した主力選手の貢献度が大きかった。高津臣吾監督は経験値が高い選手に大きな期待を寄せているだろう。

中川圭太は4年目の今季、初めて規定打席に到達した。打率はリーグ5位となる2割8分3厘、51打点、8本塁打、長打率4割4分1厘をマーク。卓越した右打ちに加え、併殺打が少なく、8犠打と小細工もできる。ユーティリティー性のある“ナカジマジック”の申し子といえる選手だ。CSファイナルステージ第4戦では日本シリーズ出場を決めるサヨナラ打を放ち、中嶋聡監督と抱擁し歓喜を分かち合った。日本シリーズでの打順はCSファイナルステージと同様に3番になるだろう。昨年の日本シリーズでは出場選手登録から外れ、悔しい思いをした。福田周平と宗佑磨をホームに迎え入れるポイントゲッターとして、または吉田正尚へ好機を広げるチャンスメーカーとして存分に機能すれば、オリックスの得点能力は大きくアップする。

浅村栄斗、9人目の千試合連続出場

強打の内野手

9月7日のソフトバンク戦に出場した浅村栄斗(楽天)が、西武時代の2015年8月8日から続けていた連続試合出場を1000試合の大台に乗せた。現役最多で、史上9人目の記録である。浅村は大阪桐蔭高校3年時の夏の甲子園大会で、1試合2本塁打を放つなど走攻守三拍子揃ったリードオフマンとしてチームを牽引し、同校の17年ぶりの優勝に貢献した。同年ドラフト3位で西武に入団し、2年目からレギュラーに定着。球団新記録となる127打点をマークするなど、強打の内野手として本領を発揮。18年は主将としてリーグ制覇を支え、同年オフに楽天にFA移籍した。昨季まで3割3度、2度の最多打点、1度の最多本塁打のタイトルを獲得している。

連続試合出場の秘訣

浅村は試合に出続けられる秘訣を「ケガをケガと思わないこと」と答えたそうだ。厳しい鍛錬と高度な技術の錬磨が求められるプロスポーツ選手は、大なり小なり故障を抱えているものである。浅村自身、14年に膝の負傷で戦線離脱せざるを得なくなったように、無理をすると、取り返しがつかなくなるケガもある。だが、どこにフォーカスするかで、人間の意識は大きく変わる。ケガを当然のものとして受け入れ、自分本来のパフォーマンスを発揮するにはどうすればよいかを探求し続けてきたことが、鉄人伝説に名を連ねた大きな要因であるだろう。

選手の勲章

連続試合出場のプロ野球記録は衣笠祥雄(広島)の2215。2位は鳥谷敬(阪神)の1939、3位は金本知憲(阪神)の1766である(所属は連続出場最終時)。出場試合数のプロ野球記録は谷繁元信の3021(中日など)。以下、野村克也(西武など)の3017、王貞治(巨人)の2831と続く。出場試合数は長年に渡り、必要とされてきた証であり、選手にとっては勲章である。「無事これ名馬なり」ではあるが、無事だけでは名馬とは言えない。そこにこの記録の含蓄がある。

史上最強の鉄人へ挑む

パ・リーグでは1000試合以上の連続試合出場した選手は、浅村がプロ入りした球団の先輩である松井稼頭央(現西武ヘッドコーチ)に次いで2人目となる。奇しくも二人とも大阪の出身であるが、まずは歴代7位となる松井の1143試合を次なる目標に据え、浅村がプロ野球史上最強の鉄人へ、どこまで迫れるか注目に値する。