阪神、岡田第二次政権発足

気力の問題

「最後2005年に優勝して、まさかね、それから優勝できないなんて思ってなかった」。古巣で2度目の指揮を執ることになった岡田彰布は、就任記者会見でそう述べた。現に優勝するチャンスは何度かあった。岡田が阪神の監督を辞任した翌年以降、2位が6度あったが、勝ちきれなかった。99~01年まで采配を振るった野村克也元監督が「最も根本的な気力の面を問題にしなければならないのは寂しいことだった」とぼやいたが、精神面での弱さを露呈したのかもしれない。

投手陣をバランス良く整備

04~08年の第一次政権では、1年目は4位に終わるも、05年の優勝を含めてAクラスが4度と安定した成績を残した。ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之。いわゆるJFKのイメージが鮮烈で、強力な救援陣がチームの躍進を支えた感がある。しかし、先発陣の陣容もそれに勝るとも劣らなかった。優勝した05年、下柳剛は15勝3敗、井川慶は13勝9敗、安藤優也は11勝5敗と、二桁勝利を挙げた先発投手が3人。二桁にあと一歩及ばなかった杉山直久(9勝6敗)を含めると、この4人で48勝(チームの勝利の約55%)を挙げ、25の貯金(チームの貯金の約76%)をつくった。ゲームをつくるのは先発陣だ。先発陣が脆弱では、いかに救援陣が強力であっても、宝の持ち腐れに終わる。先発陣と救援陣をバランスよく整備することが求められる。

先発陣のカギを握る”W西”

昨季先発陣で唯一、二桁勝利を挙げた青柳晃洋。最優秀防御率賞、最多勝利投手賞、勝率第1位投手賞の三冠に輝いた。背番号も17に変わり、開幕投手の最有力候補だ。9勝を挙げた伊藤将司も先発ローテーション入りは確実視される。この2人に続く先発投手をどうするのか。カギを握るのは”W西”だろう。西勇輝は岡田監督がオリックスの指揮官時代に批判の矢面に立たされた。21年は6勝9敗、昨季は9勝するも勝率は5割で、貯金をつくれなかった。岡田監督のもと、背水の陣で臨むことになる。19年ドラフト1位の西純矢は昨季6勝3敗とブレイクの予感を漂わせた。21歳の若武者が大車輪の働きをすると、先発陣に厚みが出る。

JFKに匹敵する救援陣を

救援陣は、昨季最優秀中継ぎ投手賞を受賞した湯浅京己。クローザーとして28セーブ(リーグ6位)11ホールドを記録した岩崎優。21ホールドをマークした浜地真澄。外国選手で唯一残留が決まったカイル・ケラーの4人が軸となるだろうが、岩崎もクローザーとしての実績は昨季のみで、4人とも実績は1年しかない。今季どれくらいの数字を残せるかは未知数で、JFKに匹敵するような強力な救援陣をつくりあげることが課題である。

得点力不足の解消

チームはここ数年”投高打低”の状態にある。18年から昨季まで、チームの失点はリーグ2、2、2、2、1位に対し、チームの得点はリーグ5、6、4、5、5位。得点力不足の解消が大きなテーマである。さらに子細に分析すると、同期間のチーム本塁打はリーグ6、5、4(タイ)、5、5位と密接な相関関係がある。広い甲子園を本拠地にしているという事情はあるにせよ、本塁打の少なさが得点力不足の主因となっている。攻撃陣の補強ポイントは、どのチームにも共通することであるが、“大砲”である。大山と佐藤は好不調の波が激しい。シーズンを通して安定した成績を残せる大砲が欲しい。今季、新戦力として、MLB通算で打率2割1分2厘、7本塁打、37打点のシェルドン・ノイジーとマイナー通算で2割4分3厘、140本塁打、427打点のヨハン・ミエセスの2人の外国人を獲得したが、日本でどれくらいの成績を残せるかは蓋を開けてみないとわからない。4番を固定できない事態に陥るようだと得点力不足の解消は厳しくなる。チームで30本塁打以上マークした助っ人は、10年に47本打ったクレイグ・ブラゼルを最後に出ていない。加えて5年連続リーグワーストを記録したチーム失策数の改善も必要だ。得点が取れないなら失策を減らし、無駄な失点を防ぐしかない。球際に強くなり、大事なゲームをものにできるチームでなければ、優勝はおぼつかない。

問われる”真の手腕”

第一次政権時は、野村、星野仙一という2人の名将が築いたベースの上でタクトを振ることができた。野村監督時代は3年連続最下位に沈んだが、野村が提唱した“考える野球”は阪神の選手に意識改革をもたらしただろう。闘将・星野の勝利への執念は、負けることに慣れていた選手に”勝利への意識”を植え付け た。加えて星野が獲得に動いた金本知憲や下柳は岡田第一次政権時に投打の柱となった。今回はそのようなバックボーンがない状態からのチーム作りを託された。なおかつ前回、内野守備走塁コーチからの昇格時は45歳で、フロントも長期政権を想定していた。還暦を超えた今回は次期監督が決まるまでのワンポイントリリーフという位置付けでもある。そういう状況の中で、前回よりも厳しいチームの舵取りを強いられる。自ら年齢的にも長くできないと覚悟しつつ臨む第二次政権において、2年間という限られた期間でどう成果を出すのか——。第一次政権時と3年連続Bクラス(5、4、6位)に終わったオリックス監督時の実績のどちらが実力なのか。岡田監督の指揮官としての”真の手腕”が問われる。

巨人、2年連続V逸

屈辱のシーズン

昨季に続き2年連続で負け越し、今季も優勝を逃した巨人。昨季と同様、今季もシーズン序盤は優勝を狙える位置につけていたが、交流戦で失速。シーズン通して戦えるだけの戦力が不足していた。7月下旬には菅野智之、中田翔、岡本和真、丸佳浩、大勢らの主力を含む選手とコーチ、スタッフの57人が新型コロナウイルスの陽性判定を受け、中日戦とDeNA戦の計6試合が延期となった。優勝云々より完走できたことを良しとすべきチーム状態だった。3位阪神と勝ち数で並びながら、0.5ゲーム差で4位に甘んじ、CSの出場も逃した。直接対決で4つ負け越したのが響いた格好だ。原政権下でのBクラスは2006年以来の2度目となる屈辱のシーズンだった。

投打の柱の不振

最大の要因は投打の柱の不振にあった。菅野はひとつ負け越した昨季(6勝7敗)よりは持ち直し、二桁勝利(10勝7敗)を挙げたが、7月からの約1ヵ月を含めて3度登録を抹消され、シーズンを通してエースの働きができなかった。岡本も30本塁打(リーグ2位)、82打点(同5位)をマークするも打率は2割5分2厘(同22位)。本来の打棒を発揮できず、8月に4番の座を中田に譲った。攻撃陣のリーダー格の坂本勇人は、ルーキーイヤーを除くと最少の83試合の出場。プロ入り2年目から14年間続いていた規定打席到達とシーズン100安打以上も途切れるなど精彩を欠いた。

投手陣に若い芽

来季に向けて明るい材料もあった。先発ローテの一角、4年目の戸郷翔征は昨季まで2年連続で9勝と二桁勝利に足踏みをしていたが、今季は12勝を挙げ、チームの勝ち頭となった。防御率2.62(リーグ5位)はチームトップ、最多奪三振のタイトルも獲得し、ブレイクした。クローザーに抜擢されたドラフト1位ルーキーの大勢は、新人歴代最多タイとなる37Sをマークし、最優秀新人賞を受賞。1年目から戦力として大きな貢献をした。また史上初となる同一シーズンに8人のプロ初勝利投手が誕生した。投手陣の層が薄く、原辰徳監督が投手のやり繰りに苦労したともいえるが、将来の巨人を背負う若い芽が育ちつつある。特に5勝を挙げた赤星優志(2021年ドラフト3位)と山崎伊織(20年ドラフト2位)、4勝の平内龍太(同年ドラフト1位)には来季、一層の飛躍が期待される。

攻撃陣に課題

8月から巨人の第91代4番を務めた中田。巨人で初めてフルシーズン戦ったが、規定打席に達せず、24本塁打(リーグ4位)、68打点(同9位)。日本ハム時代のキャリアハイの成績と比べると物足りなかった。今季巨人で唯一全試合出場した丸も広島時代に3割を3度、30本塁打以上を1度、90打点以上を3度記録したが巨人ではその数字をクリアできていない。6年目の吉川尚輝は巨人の選手トップの2割7分7厘(同10位)の打率を残し、自身初の打撃ベストテン入りを果たしたが、二塁手の守備では11失策(守備率9割8分5厘)と課題を残した。来季は吉川が攻守でチームを引っ張れる存在になれるか。今年のドラフト会議では、高校通算68本塁打の浅野翔吾(高松商高)を1位指名。阪神との抽選の結果、交渉権を獲得。14年の岡本以来となる高校生野手のドラフト1位ルーキーが、野手陣にどのような”化学反応”を起こすのか。23本塁打を放ち、長打率は5割1分5厘のアダム・ウォーカー。外国選手で唯一残留になったが、日本の野球に慣れた2年目は、さらに上積みできるか。ドラフトを2度拒否し、巨人愛を貫いた長野久義が5年ぶりに古巣に復帰する。愛する球団で最後にどんな花を咲かせるのか。岡本と坂本の復調も不可欠だ。

日本一へ強力な推進力

巨人に恋い焦がれ、1年浪人して入団した菅野も、まだ日本一は経験していない。33歳になり、球威よりも制球力で抑えるスタイルとなりつつあるが、一念発起して、チームを日本一へと導きたい。開幕投手を8度務めた巨人投手陣の顔を戸郷が牽引する形になれば、投手陣にレベルの高い競争意識が芽生える。それが第二次原政権時代の2012年以来となる日本一へ、強力な推進力となる。

余談(一)

原監督は、今季終了時点で監督通算勝利数を1220勝とした。来季、歴代9位(1237勝)の別当薫を抜くのは時間の問題だろう。今季、優勝したヤクルトはシーズン80勝を挙げたが、来季「通算1300勝」と「優勝」の”両手に花”といくだろうか。