巨人、2年連続V逸

屈辱のシーズン

昨季に続き2年連続で負け越し、今季も優勝を逃した巨人。昨季と同様、今季もシーズン序盤は優勝を狙える位置につけていたが、交流戦で失速。シーズン通して戦えるだけの戦力が不足していた。7月下旬には菅野智之、中田翔、岡本和真、丸佳浩、大勢らの主力を含む選手とコーチ、スタッフの57人が新型コロナウイルスの陽性判定を受け、中日戦とDeNA戦の計6試合が延期となった。優勝云々より完走できたことを良しとすべきチーム状態だった。3位阪神と勝ち数で並びながら、0.5ゲーム差で4位に甘んじ、CSの出場も逃した。直接対決で4つ負け越したのが響いた格好だ。原政権下でのBクラスは2006年以来の2度目となる屈辱のシーズンだった。

投打の柱の不振

最大の要因は投打の柱の不振にあった。菅野はひとつ負け越した昨季(6勝7敗)よりは持ち直し、二桁勝利(10勝7敗)を挙げたが、7月からの約1ヵ月を含めて3度登録を抹消され、シーズンを通してエースの働きができなかった。岡本も30本塁打(リーグ2位)、82打点(同5位)をマークするも打率は2割5分2厘(同22位)。本来の打棒を発揮できず、8月に4番の座を中田に譲った。攻撃陣のリーダー格の坂本勇人は、ルーキーイヤーを除くと最少の83試合の出場。プロ入り2年目から14年間続いていた規定打席到達とシーズン100安打以上も途切れるなど精彩を欠いた。

投手陣に若い芽

来季に向けて明るい材料もあった。先発ローテの一角、4年目の戸郷翔征は昨季まで2年連続で9勝と二桁勝利に足踏みをしていたが、今季は12勝を挙げ、チームの勝ち頭となった。防御率2.62(リーグ5位)はチームトップ、最多奪三振のタイトルも獲得し、ブレイクした。クローザーに抜擢されたドラフト1位ルーキーの大勢は、新人歴代最多タイとなる37Sをマークし、最優秀新人賞を受賞。1年目から戦力として大きな貢献をした。また史上初となる同一シーズンに8人のプロ初勝利投手が誕生した。投手陣の層が薄く、原辰徳監督が投手のやり繰りに苦労したともいえるが、将来の巨人を背負う若い芽が育ちつつある。特に5勝を挙げた赤星優志(2021年ドラフト3位)と山崎伊織(20年ドラフト2位)、4勝の平内龍太(同年ドラフト1位)には来季、一層の飛躍が期待される。

攻撃陣に課題

8月から巨人の第91代4番を務めた中田。巨人で初めてフルシーズン戦ったが、規定打席に達せず、24本塁打(リーグ4位)、68打点(同9位)。日本ハム時代のキャリアハイの成績と比べると物足りなかった。今季巨人で唯一全試合出場した丸も広島時代に3割を3度、30本塁打以上を1度、90打点以上を3度記録したが巨人ではその数字をクリアできていない。6年目の吉川尚輝は巨人の選手トップの2割7分7厘(同10位)の打率を残し、自身初の打撃ベストテン入りを果たしたが、二塁手の守備では11失策(守備率9割8分5厘)と課題を残した。来季は吉川が攻守でチームを引っ張れる存在になれるか。今年のドラフト会議では、高校通算68本塁打の浅野翔吾(高松商高)を1位指名。阪神との抽選の結果、交渉権を獲得。14年の岡本以来となる高校生野手のドラフト1位ルーキーが、野手陣にどのような”化学反応”を起こすのか。23本塁打を放ち、長打率は5割1分5厘のアダム・ウォーカー。外国選手で唯一残留になったが、日本の野球に慣れた2年目は、さらに上積みできるか。ドラフトを2度拒否し、巨人愛を貫いた長野久義が5年ぶりに古巣に復帰する。愛する球団で最後にどんな花を咲かせるのか。岡本と坂本の復調も不可欠だ。

日本一へ強力な推進力

巨人に恋い焦がれ、1年浪人して入団した菅野も、まだ日本一は経験していない。33歳になり、球威よりも制球力で抑えるスタイルとなりつつあるが、一念発起して、チームを日本一へと導きたい。開幕投手を8度務めた巨人投手陣の顔を戸郷が牽引する形になれば、投手陣にレベルの高い競争意識が芽生える。それが第二次原政権時代の2012年以来となる日本一へ、強力な推進力となる。

余談(一)

原監督は、今季終了時点で監督通算勝利数を1220勝とした。来季、歴代9位(1237勝)の別当薫を抜くのは時間の問題だろう。今季、優勝したヤクルトはシーズン80勝を挙げたが、来季「通算1300勝」と「優勝」の”両手に花”といくだろうか。

日本シリーズ2022総括

「拳銃」対「大砲」の戦い

今年ほど流れが激変した日本シリーズは過去になかったのではないだろうか。第3戦までは2勝1分けと圧倒的にヤクルトが優位に立っていた。総得点ではヤクルトの15点に対し、オリックスは7点。第3戦までに出たヤクルトの5本塁打はいずれも効果的だった。第1戦は2-2の同点に追いつかれた後の三回に塩見泰隆が勝ち越しソロを放ち、四回にはホセ・オスナが追加点となるソロ。仕上げは1点差に迫られた八回の村上宗隆のソロ。見事な本塁打攻勢だった。第2戦は0-3で迎えた九回に代打・内山壮真が値千金の同点ソロ。第3戦は0-0で迎えた五回に山田哲人が均衡を破る3ラン。一方のオリックスはアーチがゼロ。レギュラーシーズンでリーグトップの174本塁打のヤクルトに対し、89本塁打(リーグ6位)のオリックス打線の非力さが際立った。「拳銃」対「大砲」の戦いで、オリックスがコツコツと得点を挙げるのに対し、ヤクルトは”ズドーン”と一発。拳銃には到底勝ち目がない様相を呈していた。

潮の変わり目

土俵際に追い詰められた第4戦。オリックスは三回に1安打で1点をもぎ取ると、逃げ切りを図った。五回一死からヤクルト・塩見が三塁打で出塁すると、無失点に抑えていた先発・山岡泰輔に代え、宇田川優希を投入。山岡が〈もう交代?〉という素振りを見せたが、中嶋聡監督は勝負に出た。宇田川は二者を連続三振に打ち取り、ピンチをしのぐと、回をまたいで続投。山崎颯一郎は七回からの2イニング、最終回はジェイコブ・ワゲスパックが締め、1-0でかろうじて逃げ切った。この一戦が潮の変わり目だったか――。オリックスは第4戦を落としていれば、一気に寄り切られていた公算が高かった。

特大のサヨナラ弾

田嶋大樹と山下輝の投げ合いで始まった第5戦。オリックスは先制され、0-2の苦しい展開となったが、四回に紅林弘太郎と若月健矢の適時打で追いついた。ヤクルトの先発・山下はオリックス打線に捉えられ始めていたが、五回も続投。それまで中村悠平の好リードが奏功し、眠らせていた吉田正尚に痛恨の一撃を浴びた。その後、六回に逆転したが、九回にまさかの展開が待っていた。守護神スコット・マクガフが先頭打者の代打・安達了一に四球を与え、福田周平の犠打で一死二塁。続く西野真弘の投手強襲安打を一塁へ暴投し、1点を献上。二死から吉田正に京セラドームの5階席へ特大のサヨナラ弾を打ち込まれた。オリックスの今シリーズでのチーム初本塁打となる、吉田正の1本目のソロが劇的弾の呼び水になり、ヤクルトは五回の山下の続投が手痛い結果を招いた。

断ち切れなかった悪い流れ

ヤクルトにとって悪い流れを第6戦も断ち切れなかった。0-1で迎えた九回のマウンドに高津臣吾監督はマクガフを送った。これにはチームやファンにまだまだ諦めていないぞというメッセージと絶対的な信頼を置くクローザーに自信回復の機会を与える意味合いがあったのだろう。しかし、またもや先頭打者の安達に出塁を許した後、紅林の送りバントを一塁に悪送球し、安達が生還。さらに西野の犠飛で1点を追加され、次打者に四球を与えたところでマクガフは降板。ヤクルトとしては最悪の結果になった。打線もトップバッターの塩見が初回に放った1安打のみで、オリックスの5投手による零封リレーを許した。

意地も時すでに遅し

オリックスが王手をかけた第7戦。マクガフをベンチ入りメンバーから外したヤクルトにさらなる悪夢が襲いかかった。0-1とリードされて迎えたオリックスの五回の攻撃。先頭打者伏見寅威が右前打で出塁。宮城大弥の送りバントをサイ・サイスニードの打球処理が遅れ、内野安打に。中嶋監督は、先頭打者本塁打を放っていた太田椋にも送りバントの指示。太田は三塁前へ転がしたが、今度は村上がベースカバーに入ったことにより打球処理が遅れ、満塁に(記録は内野安打)。宗の一ゴロをオスナが好プレーで併殺を完成させ、ピンチを脱したかにみえたが、中川は四球で再び満塁に。吉田正に死球を与え、押し出し。そして次打者・杉本裕太郎の左中間への打球を、中堅手・塩見が捕球態勢に入っていながら後逸し、走者一掃の失策となった。今季127試合に出場し、2失策の名手の考えられないプレーが飛び出し、万事休した。このイニングに出た記録に残らない2つのミスと1失策で球団初の日本シリーズ連覇は一気に遠のいた。打線は八回に今シリーズで好投を続けていた山崎颯から村上の適時打とオスナの3ランで4点を返す意地を見せたが、時すでに遅しだった。

災い転じて福となす

昨年の日本シリーズ、ヤクルトは初戦でマクガフが打たれ、サヨナラ負けを喫した。シリーズ開始早々に崖っぷちに追い詰められた高津監督は、状況を打開すべく“攻めの継投”に出た。一方の中嶋監督は優位に立ったことで継投が守りに入った感がある。翻って今年の日本シリーズでは、初戦で絶対エース・山本由伸が左脇腹の負傷で、4回途中4自責点で降板。中嶋監督は第6戦以降の山本の登板を匂わす発言をしていたが、山本抜きで今シリーズを戦う覚悟を決めていたのではないか。それが第2戦に先発し、無失点に抑えていた山崎福也の四回での交代、第4戦では失点をしていなかった先発・山岡を4回1/3で交代させる“非情な采配”として表れた。第5戦では勝負どころはまだ先と読み、宇田川、山崎颯をベンチ入りメンバーから外した。この“攻めの継投”が功を奏した。また第7戦では宮城をプロ入り初の中4日で先発起用。このリスクを背負った采配も吉と出た。ヤクルトは、初戦で相手のエースをKOし、四番も本塁打。会心の勝利を収めたことでその後の継投が守りに入ったように映った。昨年も今年も“災い転じて福”となした指揮官に軍配が上がった。

短期決戦の怖さ

今年の日本シリーズは、短期決戦の怖さをまざまざと見せつけられた。ヤクルトの第4戦以降の本塁打は2本、零封負けは2回。シリーズ序盤で見せた打線の爆発力は鳴りをひそめた。勝利の女神は移り気で、非情だ。”勝利への執念”を見せた中嶋オリックスに微笑み、流れを手放した高津ヤクルトには背を向けた。第7戦終了後に見せた高津監督の涙が「兵」を雄弁に物語っていた。

最高殊勲選手賞

最高殊勲選手賞は杉本が受賞した。26打数6安打(打率2割3分1厘)3打点。打率=長打率、つまりすべて単打だった。第4戦と第6戦の決勝点となった先制打、第2戦の三塁への当たり損ねのゴロ(記録は内野安打)で1打点をマークするなど、ツキもあったが、長打が打てなくとも単打で打点を稼ぐ堅実な打撃が光った。レギュラーシーズンでは不振に喘いだが、日本シリーズでリベンジした。

優秀選手賞と敢闘選手賞

優秀選手賞はオリックスから山崎福と吉田正、ヤクルトからは塩見が受賞。山崎福は2度先発し、第6戦では勝利投手に。計9イニングを無失点に抑え、1完封に相当する働きをした。打撃でも3打数1安打1打点、犠打も1つ決め、大学時代に慣れ親しんだ神宮で躍動した。吉田正は23打数4安打(打率1割7分4厘)も2本塁打。特に第5戦の特大劇的弾は強烈な印象を残した。また4得点4打点はいずれもチーム最多。四球8(申告敬遠3)で出塁率は4割6厘、長打率4割3分5厘とともに7試合に出場したオリックスの選手の中で最高の成績を残した。塩見は28打数10安打(3割5分7厘)で、両チーム最多の5得点をマーク。第3戦以外はトップバッターを務め、リードオフマンとしての役割を果たした。敢闘選手賞は30打数11安打(3割6分7厘)、2本塁打で両チーム最多の8打点を挙げたオスナが受賞した。

「全員で勝つ!!」で頂点へ

オリックスは表彰選手以外にも、多くの選手が日本一へ多大な貢献した。急遽クローザーを託されたワゲスパックは5試合に登板し、計5イニングで無失点。1勝3S1ホールドで、チームのすべての勝利に絡んだ。先発で結果が出ずに、シーズン途中で救援へと配置転換されたが、今年の締めくくりとなる大舞台で大役を全うした。宇田川は4試合に登板し、1勝2ホールド。計5回2/3を無失点に抑え、10奪三振で三振奪取率15.88をマーク。三振を取りたい場面で豪速球が唸り、パワーピッチャーの特性を遺憾なく発揮した。太田は第4戦以降にスタメンで起用され、15打数6安打(4割)。第7戦では日本シリーズ初の初球先頭打者本塁打で日本一へチームを勢いづけた。ベテランでは比嘉幹貴、西野、安達が躍動した。比嘉は5試合中、4試合でイニング途中からの登板だったが、計4イニングで6つの三振を奪って失点ゼロ。とりわけ第1戦の山本が降板した後の緊急登板、第7戦のオスナの3ランで1点差に迫られた後の投球は見事な火消しぶりだった。難しい場面で円熟の投球を披露し、縁の下の力持ちの働きをした。第5、6戦でマクガフ攻略の先陣を切った安達。シリーズ打率3割8厘も四球を3つ選び、出塁率は4割3分8厘。2犠打と小技も決めた。守備では再三好守を見せ、いぶし銀の存在感を発揮した。西野はシリーズ打率4割5分5厘。スタメンで9打数3安打、代打で2打数2安打2打点。スタメンでも代打でも指揮官の期待に応え、第5、6戦ではマクガフ攻略に大きな役割を果たした。「全員で勝つ!!」のスローガンを体現して、オリックスは26年ぶりに頂点に立った。

余談(一)

村上の今シリーズの打撃成績は26打数5安打(打率1割9分2厘)だった。安打の内訳は単打2本、二塁打2本、本塁打1本。四球を6つ選び、出塁率は3割4分4厘。凡退の内訳は内野ゴロが9(うち併殺打1)、内野フライ2、外野フライ2、三振8。内野ゴロが約43%を占め、バットに当てても打球が上がらないことが多かった。オリックスバッテリーがうまく攻めたといえる。8三振のうち、空振りと見逃しが4つずつ。狙いが外れたというより手が出なかったという見逃しが多く見受けられた。打席の中で迷いがあったのかもしれない。それが守備にも伝播したのか――。

村上の第3戦終了時のシリーズ打率は3割8厘だったが、第4戦の第1打席から第7戦の第3打席まで16打席連続無安打。チームはそれに歩調を合わせるかのように4連敗。来季は対戦チームの村上への攻めが一層厳しさを増すと予想される。来年3月にはWBCもある。今シリーズを糧として、スラッガーとしてどのように進化するのか大いに注目される。

余談(二)

ヤクルト・高橋は第3戦に先発し、6回無失点。昨年第2戦から15イニング連続無失点で、オリックスキラーぶりを発揮した。今シリーズでの登板は1度のみに終わり、ヤクルトファンにとっては切歯扼腕の思いだったのではないか。第3戦で投げ合った宮城は第7戦にプロ入り初となる中4日で先発したが、高橋の先発という起死回生策はなかったのだろうか――。

余談(三)
第2戦の九回、3-0でリードの場面で登板したオリックス・阿部翔太。無死一、二塁から伏兵の代打・内山に痛恨の3ランを浴びた。レギュラーシーズンは44イニングで被本塁打1の右腕のよもやの被弾に中嶋監督は思考停止に陥ったかのようだった。その後、一発が出ればサヨナラという場面で阿部は続投し、山田、村上、オスナの強力クリーンアップを打ち取った。抑えには失敗したが、自らが招いた難局を自力で切り抜けたことは大きな収穫となっただろう。第5戦は1回1/3を無失点に抑え、リベンジ。今季は44試合に登板し、1勝3セーブ22ホールド(防御率0.61)という成績を残した。試練が阿部をどう成長させたか、来季に注目だ。

余談(四)

 第5戦、日本シリーズ初となる1イニング2併殺が記録された。5回のヤクルトの攻撃。無死一、二塁で村上の一ゴロで一塁走者を封殺するが、一塁ベースカバーに入った田嶋大樹が落球し(記録は失策)、一死一、三塁。ここで投手交代。比嘉はサンタナを遊ゴロ併殺打に打ち取った。

余談(五)
オリックス・伏見寅威は第7戦の九回に二塁打を放ち、ベースを踏んだ際に足首を捻り、代走を送られた。その裏のヤクルトの攻撃は三者凡退に終わり、伏見は日本一の瞬間をベンチで見届けた。今シリーズは、第2、3、6、7戦にスタメンマスクをかぶり、16打数5安打(打率3割1分3厘)とバットでも貢献した。地元の球団・日本ハムにFA移籍し、果たせなかった日本シリーズでの”胴上げ捕手”をひそかに狙っているのではないだろうか。