牧秀悟、新人4人目の3割20本塁打

”何か”を持っていた

今年ドラフト2位で中央大学から入団したDeNA・牧秀悟。オープン戦では、三浦大輔監督からは右方向への進塁打など、状況に応じた打撃を評価されていたが、9試合に出場し打率2割7分3厘、本塁打はゼロ。6本塁打を放ち、オープン戦本塁打王に輝いた阪神の大物ルーキー・佐藤輝明の陰に隠れて、注目度は低かった。それゆえ、実績で勝負という意識が自然に醸成されたのかもしれない。またキャンプ中の一軍と二軍による紅白戦で坂本裕哉から初打席で本塁打を放ったり、オープン戦初戦のオリックス戦で、球界のエース・山本由伸から初打席の初球を安打するなど、“何か”を持っていた。

新人として数々の勲章

シーズンを通じてDeNA打線の中軸として機能し、137試合の出場で、チームトップの打率3割1分4厘(リーグ3位)、22本塁打(同8位)、72打点(同8位)、長打率5割3分4厘(同3位)。打率は1954年の広岡達朗と並び2リーグ制後の新人右打者の最高打率、シーズン153安打は58年の長嶋茂雄(巨人)と並ぶセ・リーグ新人歴代2位、シーズン14度の猛打賞は同じく長嶋と並ぶ新人最多タイなど、新人としては破格の成績を残した。加えて、新人の3割20本塁打は、長嶋、81年の石毛宏典(西武)、86年の清原和博(西武)に次ぐ史上4人目で、ルーキーイヤーは球史に名を残すスラッガーに肩を並べる活躍だった。

勝負強い打撃

4月6日の中日戦で球団通算8000号のメモリアルアーチを放ち、8月25日の阪神戦でレギュラーシーズンでの新人初のサイクル安打を達成するなど、勝負強い打撃を披露した。9月28日のヤクルト戦で今季117本目の安打を放ち、59年の大学の先輩、桑田武の球団新人記録に並んだ。翌日にはその記録を更新し、球団史に名を刻んだ。

10月は独擅場

佐藤輝が8月~10月にかけて59打席連続無安打と極度の不振に陥ったのとは対照的に、10月は牧の独擅場だった。6日にケガのオースティンに代わり4番に座ると、19日に打率を3割に乗せた。その後、リーグ新人初となる4度目の1試合4安打、プロ野球記録となる5打席連続二塁打、長嶋を抜くリーグ新人最多記録のシーズン35本の二塁打。13日の広島戦から最終戦まで9戦連続安打を放ち、シーズンの最後まで手綱を緩めなかった。10月は全19試合に出場し、打率4割5分2厘、33安打(11二塁打)、6打点。10・11月度の月間MVPを受賞した。

ハイレベルな新人王争い

今年のセ・リーグの新人王はハイレベルな争いとなったが、新人最多タイとなる37セーブを挙げた広島・栗林良吏が受賞した。有効投票数306のうち、栗林が201票、牧が76票と大差がついた。プロ野球担当記者らによる投票で決まるため、栗林が東京五輪の全5試合で2勝3セーブを挙げ、金メダル獲得に大きく貢献したことも印象度アップにつながった側面はある。昨年までで、セ・リーグの新人王に該当者がなかったシーズンは4度あり、今年がそんなシーズンだったら、間違いなく新人王に選ばれる成績を残した。

選球眼を磨き“好球必打”

今季の牧は四球は27個で、規定打席到達者32人の中で5番目に少なかった。選球眼に優れ、バットに当てる能力の高さを表すBB/Kは0.32と低かった。ルーキーイヤーの長嶋も四球は36個。2年目はほぼ倍の70個の四球を選び、BB/Kは0.68→1.75と大幅に向上。それに伴い、打率も3割5厘→3割3分4厘、長打率も5割7分8厘→6割1分2厘と上昇した。来季の牧は、選球眼に磨きをかけ“好球必打”を心がければ、さらなる打撃成績の向上が見込める。来季は真価が問われるシーズンになる。

日本シリーズ2021総括

日本シリーズ史に残る接戦

史上初の前年最下位チーム同士の対戦となった今年の日本シリーズ。6戦のうち、1点差ゲームが5試合、残りの1試合も2点差という日本シリーズ史に残る接戦を制し、ヤクルトが20年ぶりの日本一に輝いた。双方とも下剋上を果たしたチームらしく、崖っぷちに追い詰められても盛り返す強靭なメンタリティがあった。

勝利の方程式が崩壊

オリックスは初戦、吉田正尚のサヨナラヒットで制し、最高のスタートを切った。ヤクルトからすると、一番打たれてはいけない選手に手痛い一打を浴び、自慢の“勝利の方程式”がいきなり崩壊。八回を託された清水昇は無失点に抑えはしたものの被安打1、与四球1。1イニングに33球を費やし、本調子ではなかった。守護神スコット・マクガフにいたっては一死も取れずに3失点と炎上。先発投手陣で最も勝ちを計算できる奥川恭伸で初戦を落とし、高津臣吾監督は4連敗を覚悟したのではないか。

史上初の快挙

ところがどっこい、第2戦先発の高橋奎二が史上13人目となる日本シリーズ初登板初完封。公式戦で完封がなかった投手の日本シリーズ初登板初完封は史上初の快挙で、これで潮目が明らかに変わった。この想定外の高橋の快投により中嶋聡監督のコンピューターに狂いが生じたのか、第3戦以降の継投が後手に回った感がある。

シリーズの流れが決まる

オリックスにとって、致命的だったのが第3戦の敗戦だ。杉本裕太郎のシリーズ初本塁打となる同点2ラン、吉田正の適時打で勝ち越しながら、七回のホセ・オスナの2ランで痛恨の逆転負け。今度はオリックスの攻撃の“勝利の方程式”が打ち砕かれ、シリーズの流れが決定付けられた。第2戦の高橋の快投でリードに自信を深めた中村悠平は、第4戦はシーズン4勝の石川雅規を6回1失点、第5戦はシーズン3勝の原樹理を5回途中2失点、第6戦はシーズン4勝の高梨裕稔を4回途中1失点と、先発投手を好リードし、ヤクルトが主導権を握った。

ミスが命取りに

オリックスも1勝3敗で後がなくなった第5戦に、アダム・ジョーンズの値千金の代打本塁打で勝ち越すなど土壇場での粘りを見せたが、ミスが命取りになった。第2戦の九回の杉本の失策絡みの失点は、高橋の出来を考えれば、ダメ押しといえた。第6戦の十二回。この回を抑えれば、負けはなくなるという状況で、二死一塁から伏見寅威の捕逸。川端慎吾の単打で二塁走者が生還し、勝ち越し点を許した。ヤクルトにも失策による失点はあったが、オリックスの失点のほうがダメージが大きかった。

二死からの粘りの攻撃

ヤクルトの攻撃に目を向ければ、本塁打でも適時打でも点を取れるしぶとさが光り、リーグトップを誇る625得点の攻撃力を証明した。今季CSを含め16連勝中だった沢村賞投手・山本由伸から第1戦と第6戦の2度とも先制点を挙げ、試合の主導権を渡さなかった。加えて、このシリーズで挙げた総得点19点のうち10点が二死から、第2、3、6戦は全得点を二死から挙げ、粘りのある攻撃がオリックス投手陣を苦しめた。

日本シリーズ仕様の投手起用

今季はレギュラーシーズンは九回で打ち切りだったため、最終回から逆算して救援陣を起用できたが、日本シリーズでは延長戦があり、投手の起用法を変えざるを得ないケースがあった。第2戦で8回を投げ終わった高橋の投球数は122球。CSを含めて最多投球数は122球、最長イニングは8回の高橋を9回も続投させたが、このリスクを背負った大英断が吉と出た。第3戦は七回、ドミンゴ・サンタナの2ランで逆転後、八回は清水ではなく、七回の二死満塁のピンチを切り抜けた石山泰稚を続投させた。石山は八回を三者凡退に抑え、最終回のマクガフにつないだ。第6戦は十回途中から登板したマクガフが回またぎで十二回まで投げきった。レギュラーシーズンは回またぎがなく、1イニングが最長だったマクガフの“日本シリーズ仕様”の起用。臨機応変の投手起用においては高津監督のほうが一枚上手だった。

勝者と敗者を分けたもの

第4戦で勝ち投手になった石川、第6戦で勝ち越し打の川端、日本シリーズMVPに輝いた中村は、2015年の日本シリーズの主力メンバーだった。一方のオリックスは若手にミスが目立った。今年の日本シリーズの勝者と敗者を分けたもの――。それは6年ぶりに日本シリーズに出場したチームと、25年ぶりに日本シリーズに出場したチームの経験値だったのかもしれない。